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過激に可憐なデッドエンドライブ
【ファンタジー その他小説】

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過激に可憐なデッドエンドライブ-59

「ムカつくんだよ」
 言いながら、結界から距離をとるテツヤ。息が荒くなり、頬を汗が伝う。
 そして出現するテツヤの瞳。
 黒い海から月が浮かび上がるように、テツヤの目に金色の瞳が出現する。まるでリリムレーアのそれのようなテツヤの瞳は、黒地に生えてギラギラと光っていた。
「偉そうじゃないアンタを見るのは嫌なんだ!」
 駆け出す。全力疾走。結界手前で跳躍。利き腕に全力を―。
「おらああ!」
 めちゃくちゃな姿勢。少しも美しくない。でも、全ての力を込めた正拳突き。
 ばちばちばち
 結界の反発。苛烈。閃光、明滅。弾ける大気。肉の焦げる臭い。
「バカか君は、そんなことしても―」
 嘲笑うヨシュア。強く印を結ぶ術者たち。抗うテツヤ。
「ぐあああああ!」
 結界と衝突する拳やや前進。更なる衝撃波。割れるステンドグラス。崩れ落ちる瓦礫。
「や、やめろ、利き手を潰す気か!」
 銀髪を振り乱してリリムレーアが叫ぶ。
それでもテツヤは止まらない。それどころか更に拳に力を込めている。力、いや、それは魔力も混じっていた。結界破りなんて上等なものではない。極シンプルな魔力の放出。
それも尋常ではない、大量の魔力放出。
本来なら止めるはずの人狼族が怖気づいたように尻尾を丸めている。
「がああああああ」
 魔力量、更に増大。結界、最大発光。凄まじい風が吹き荒れる。
テツヤの全身に浮き出る血管。煙を上げる右腕。
そしてその狂気に冒されたような黒と金の目。
 あれは、永久制約術式…。
「そんな、私は何も―」
 瞬間、吹き飛ばされる術者の両手。術式に耐え切れなくなったのか、一人の術者の肘から先が無くなっている。
「ば、化け物!」
 びしっと硝子がひび割れるような音がした。まるで地から逆に落ちる稲妻のように、結界の表面をヒビが走る。
 炸裂。衝撃波。爆風。
 術者も人狼も皆吹き飛ばされる。
 教会の床に亀裂。倒れる柱。崩壊していく石の壁。力を失う鉄の鎖。
 大量の粉塵や煙で何も見えない中、リリムレーアはゆっくりと落下しようとしていた。着地する力はおそらく、ない。
「リリムさん!」
キョウの叫ぶ声が耳に入る。その時、ヨシュアの悲鳴が聞こえた。
刹那、煙を突き抜けるように飛び出てくる人影。
「お前!」
 地面に着地した時、テツヤに抱かかえられていた。
 半壊した教会の天井からは夜空が見え、明るい月が覗いている。その月光に浄化されるように砂埃が引いていった。
 そこは地獄だった。
 壁にめり込むようにして絶命する術者。崩れ落ちた十字架。瓦礫に身をもたれさせるキョウ。胸を抑えて膝をつくヨシュア。
「あ、あああ! この僕が、こ、この僕に傷を…!」
 ヨシュアの胸は斜めに切り裂かれ、溢れ出る鮮血が月明かりを反射している。
 結界が破られた直後。その勢いのままヨシュアに鋭い一撃を繰り出し、落下するリリムレーアを受け止めた。テツヤが止まることは一瞬たりともなかった。
「ハあはあ、だいジョうブ、カ?」
 激しく呼吸するテツヤの口調がおかしい。
「あ、ああ。でも、テツヤ。お前、腕が…」
 テツヤの腕に触れようとして躊躇した。その腕は黒く焼け焦げ。見ただけでも動かないのがわかる。
「グウゥ、しんパイ、するナ」
 テツヤの全身から禍々しいほどの魔力が洩れていた。その魔力に支配されてしまいそうなほど強い力だった。
「ああ、もう。この枷さえなければ―」
 その傷を治癒できるのに、と言おうとした時、突然手足の枷が炎を上げて崩れ落ちた。
 強力な術封じが施されたはずの戒めが。
「お、お前、何をした…?」
 今起きた出来事を理解できずに、テツヤを見上げる。
 刹那、目前に血塗られた剣の先があった。
「死ね死ね死ね!」
 跳ね回るように剣が動く。その剣はテツヤの胸元から生えるようにして突き出ている。そしてテツヤの背後で目を血走らせる金髪の男。


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