過激に可憐なデッドエンドライブ-57
「…最高の気分だ。どんどん血が溢れてくる。素敵だよ、お姫様。お礼に、一生僕の妻として可愛がって上げるからね…」
ヨシュアの見上げる先には、力なく項垂れた姫君の姿があった。
「永遠に血を流し続ける玩具のように」
抜けるような高い空に巨大な満月。
雲一つ無く晴れた夜空。
闇を切り裂くようなスピードで、俺は飛んでいる。
「ひいいいいいいい!」
今まで体験した事のない速度だった。顔面から色んなものが溢れてくる。
「ぎゃああああああ!」
眼球が飛び出そうになりながらも、かすかに見える地上。そこは、かつてクイーンズタ
ワーから見たものよりもずっと小さく見えた。
「しがみつきすぎ。上手く飛べないじゃない」
透き通るように白い肌に、血のように赤い瞳を持つ少女ユリア。そんな小学生くらいに
しか見えないユリアに全身で抱きつく。はたからみれば、幼女にプロレス技をかける変態
にしか見えない。が、しかし。
「あひい! 高いよう、速いよう!」
体裁を気にしている場合ではなかった。既になぜこの子は空を飛べるのかなんて疑問す
ら思いつかないし、ユリアの背中から生えている巨大な翼も気にならない。
それくらい、
「お、おろしてええ!」
切羽つまっていた。
「で、電車で行こう!」
ほとんど吹き付ける強風に音声を掻き消されてしまうので、怒鳴るように叫ぶ。
「ダメ。間に合わない。急ぐね!」
いいよ、ゆっくり行こうと言おうとした瞬間、なぜか張り切るユリアは倍近くのスピー
ドを出した。
ごうっという何かの壁を突き破ってしまった音が聞こえる。
「バッ―」
バカ、速すぎるぞ、コイツぅ! なんて余裕を持ったツッコミを入れようとして、
俺は星になった(失神した)。
「何を燃え尽きているの。ついた」
空気が弾ける音がして、急にユリアが止まる。そうして滞空している時には必要ないのか、巨大な翼は消えていた。
「ユリアはかつてオマエが好きだったし、マグダはアナタを愛している」
突然、意味不明なことを口走る少女は、金髪を棚引かせて俺の頬を撫でた。どきりとしてしまうほど妖艶な仕草だった。思わず少女の外見が幼いことを忘れてしまう。
「だから、どうなるかを決めるのは貴方自身」
どん、とユリアに胸を小突かれる。
あれ、こんな高いところでそんなことしちゃダメじゃね?
なぜなら、がっちりしがみついていたはずの両手両足が離れてしまったから。
「ひ、ひいいいぃぃぃぃ」
絶望とともに、小さなユリアが遠くなっていく。涙だか鼻水だかわからない液体が宙に浮いているのは何故なのか。
落ちる、落ちてる! fall>fel>fallenl 重力加速度9.8?
なんて地味な走馬灯だ!
そんなことを重いながらも、いつのまにか身体の中で一番重い頭部が下を向いていた。
眼前に迫る西洋風の建物。みるみる近くなっていく。
ぶ、ぶつかる!
意味はないと思いながらも両手を交差させて顔面をガード。
斜度の強い屋根。衝撃。砂埃。衝撃。落下音。
バチバチッ
刹那、感電したような音がして何かに衝突した。そのまま、その何かの上を滑るように地面に突撃する。