過激に可憐なデッドエンドライブ-5
中学卒業と共に家を出た。
物心つく前に父親はいなくなり、かろうじて記憶の残る母もすぐに姿を消した。
周りの者が言うには、母は違う世界に行ってしまったらしい。つまり、死んだということだろう。
それからは地獄の日々だった。
祖母は家業を継がせるためだかなんだか知らないが、俺に狂ったようなシゴキを加えた。
このままでは死んでしまう。誇張でもなんでもなく本当にそう思った。
だから、中学卒業と同時に家出同然の一人暮らしを始めた。
当然、連れ戻されるだろうと思っていたのに、実家からの音沙汰は全くなかった。毎月、多額の仕送りが無言で入金されるだけ。それが返って不気味だった。
この能無しが!
祖母に度々そう罵られていたのが思い出される。それを考えれば、家出をしたと思っているのは俺だけで、実際は勘当されたのかもしれない。
もっとも、俺はそれでもかまわない。
あんな家に未練はないし、今の学校生活は楽しい。
実家での生活なんて思い出すだけで寒気がする。
祖母も周りの人々も俺を蔑んでいたように思う。
今、空手をやっているのは愚図だの凡愚だの言われていた過去の自分を、払拭したいからかもしれない。
今のこの幸せすぎる学園生活。
それがずっと続けば俺は満足だ。
リビングのソファーにもたれてテレビをつけながら、俺はそんなことを思った。
朝の通勤ラッシュで混雑する電車から降りると、冬の澄んだ青空が広がっていた。
それなのに、ため息を一つ。
「あーだるい」
朝は苦手だった。特に、こんな寒い日の朝はなおさらだった。
背を縮めて、コートのポケットに手を突っ込んで歩き出す。
ほんとに地球温暖化してんのかよ。さわやかに歩く他の生徒達の気が知れない。
ふとそんな時、誰かの視線を感じて顔を上げる。
しゃらん。
涼やかに響く金属音。
「…坊さん?」
そこには、錫杖を持った托鉢僧が立っていた。
しかし、視線の主はその僧ではなく、その足元。
托鉢僧の裾を掴んだ小さな女の子が俺の方をじっと見つめている。
まず目に入ったのは、波打つように流れる綺麗なブロンド。どこの国の子供だろうか。柄にもなく息を飲んでしまうほど綺麗な子供だった。
というか、明らかに変な組み合わせだろ。
女の子が綺麗であればあるほど、一緒にいる托鉢僧の胡散臭さが際立つ。
どう見ても誘拐している最中である。
なのに、周囲の人間はこの異色の二人組みを気にかけないどころか、見えてないのではないかと思わせるほど無関心に通り過ぎていく。
「そこのあなた」
あまりにじろじろ見すぎたのか、托鉢僧が話し掛けてきた。
やばいと思って、慌てて目を逸らす。
「そこの性格の悪そうなあなた」
「おい、こら、おっさん!」
予想外の悪口に思わず突っ込んでしまう。
「私はおっさんと呼ばれるような歳ではありません」
きっぱりと言う托鉢僧は確かに若かった。意外と端正な顔立ちをしている。それでも、坊主の格好をしているのに、長く伸ばした髪とかがなんとも怪しい。
ていうか、この人、目が。
「この通り目が不自由なもので、あなたを呼び止める為にその内面から滲み出る性悪さを表現してみました。あしからず」
そう言いながら托鉢僧がぺこりと軽く頭を下げる。
あれれ、なんか今ものすごく失礼なことを言われたような。