過激に可憐なデッドエンドライブ-48
「…頼む見逃してくれ、来年娘が高校にあがるんだ。先生、まだ辞めるわけには行かないんだ!」
とても切実に懇願された。
誰かに脅されているらしい。おそらく夕子だろうけど…。
「そんな…。できないっ! 俺にはできないよ、先生。隣で頭の中が大気圏突破しているような奴がいるのに、見て見ぬ振りするなんて!」
必死に緊迫感を演出して言った。
あまりに頭に来ていた俺は、リリムレーアをハブにする作戦2ndを発動することにした。
1、 迫真の演技でみんなの同情を買う。
2、 いい加減、寛大なクラスメート達も、あの女やりすぎじゃね? と気付く。
3、 リリムレーアはハブられて、悲惨になった学校生活に嫌気が差し、盗んだバイクで走り出す。
4、 俺ハッピー。
完璧すぎて、恐ろしい作戦だった。
が、しかし。
「ちょっと、帆村くん言い過ぎじゃない?」
「そうだぜ、まだ日本での生活に慣れていないんだからしょうがいないだろ!」
しかし、うちのクラスメートの心の広さは東京ドーム五個分はあるようだ。
「…なんだ、お前らはアレか、宗教でも開くつもりか」
「何わけのわかんないこと言ってんだよ! ほら、お前のせいでリリムレーアさんが下向いちゃったじゃないか!」
「がんばって、リリムちゃん!」
いろんなところでリリムレーアを応援する声がする。
というか、こいつらは一体いくらの大金で魂を売ったのか…。
そんな時、リリムレーアの鋭い目が俺を射抜いた。
目がマグマのように煮え滾っている。
ああ、この女は凹んでいるんじゃない。俺にバカにされて怒り狂っているようだ。
今にもすさまじい攻撃が飛んでくるだろう。
しかし、それならそれでリリムレーアハブ作戦3rdレボリューションで―。
「…あぁ」
その時、突如としてリリムレーアが額に手をやってソファーに倒れこんだ。といっても、もともと寝転がっていたので少し滑稽だった。
「リ、リリムレーアさん!」
そんなリリムレーアに滋賀内が過敏に反応する。
「…少し眩暈が」
よよよとしなを作るリリムレーア。
「大変デス! スグニICU完備ノ特殊戦闘機ヲ…」
「…意味わかんねえよ」
変なことを喚く葉っぱを持ったイケメンその一に突っ込みを入れると、リリムレーアがよろよろと身体を起こした。
「大事無い…。だが、テツヤ。念のため保健室に連れて行ってくれ」
その呟きはとても弱々しいものであったが、燃えるような瞳には有無を言わさない迫力があった。
「あ、ああ」
おずおずとリリムレーアに肩を貸して教室を後にする。
残された教室では、真っ青な顔で辞表を書く滋賀内と、葉っぱを強く握ったイケメンたちがオロオロとしていた。
「ふむ、なるほど。確かに私にも反省するべき点があるようだ…」
そう言いながら、少ししょんぼりするリリムレーア。
「…」
そんなリリムレーアを見つめる俺の顔は二倍以上に腫れ上がっていた。
「…あのう、理由を聞く前に、ボコボコにするのやめてくれませんか」
口の中が切れていて、喋るだけでも一苦労だった。
教室を出たとたんに元気になったリリムレーアは無言でスタスタと歩き始め、保健室とは全く逆方向の体育館裏までくると、急にポケットから謎の巾着袋を取り出した。
その袋の中に入っていたのは、二つの厳しいメリケンサックだった。
その後、すぐさまマウントをとられてボコボコにされた。
たっぷり十分ほど汗を流したお姫様は、ふと我に帰って尋ねてきた。