過激に可憐なデッドエンドライブ-46
「まあ、高貴な身分なのになんて殊勝なのかしら!」
「勉強熱心だな!」
…お前ら、心広すぎだろ。
リリムレーアは先生の横で上品に微笑んでいた。
「では、リリムレーアさん、恐縮ですが一言お願いします!」
将校に挨拶する二等兵のように、矢茂目先生が直立して言った。
「うむ。よろしく頼む」
リリムレーアは胸を張ってそう言うと、目を細めて極上の笑みを浮かべた。
『…』
教室中が、息を呑んだようにリリムレーアの笑顔に見とれている。あんなに偉そうなのに…。
「こ、こちらこそ、よろしくお願いします!」
学級委員の角田が顔を真赤にして叫んだ。
その角田の言葉が発端になり、堰を切ったようにクラス中から歓迎の声があがる。
そんなクラスの喧騒を聞きながら俺は思った。
ふふふ、あんなツギハギだらけの怪しい設定と傲慢な態度のリリムレーアもクラスの一員として暖かく受け入れられたようだ。
「って、そうはさせるかあああああ!」
もう我慢できずに立ち上がって叫んだ。
俺の突然の剣幕に教室の中がしんと静まり返る。
矢茂目先生が真っ青な顔で立ち尽くしている。
「どうしたのだ、テツヤ? お腹空いたのか? でも、エサはまだだぞ」
リリムレーアが困ったように綺麗な眉を寄せる。
「犬か俺は! 俺が言いたいのは、お前なんかに俺の学園生活をメチャクチャにされてたまるかってことだ! ウソばっかりつきやがって! だいたいな、制服が似合ってないんだよ! なんか犯罪の臭いがするんだよ!」
一気に捲し立てる。言い終えた時には、肩で息をつくくらい疲れていた。
…もしかしたら、俺は殺されるかもしれない。
今までのリリムレーアとのやり取りを考えると、そう思えてならなかった。
でも、それが俺の作戦だった。
1、 怒り狂ったリリムレーアが俺を血祭りにあげる。
2、 それを見たクラスメート達が、「この女ヤバイ…」と気付く。
3、 ハブられたリリムレーアが「覚えてやがれ!」とか言いながら学校をあとにする。
4、 俺の日常は守られる。
完璧な作戦だった。さあ、殺るなら、殺れ!
しかし、明らかに怒っていたリリムレーアはふっとため息をつくと、落ち着いた声で言った。
「ふむ、そうか。要は私の制服姿に見とれていたのだな」
「なっ、なに言って…」
予想外の反撃にうろたえる。
余裕の表情を浮かべたリリムレーアは肩をすくめながらトドメを刺しにかかった。
「まったく、呆れた奴だ。お前がいつも血走った目で私を見つめているのは知っていたが…、仕方ない。私は寛大だ。見つめることを許してやる。フフフ」
「ふ、ふざけんな!」
悪魔のように笑うリリムレーアに、必死に食って掛かろうとするが、言葉が上手く出てこない。あまつさえ。
「リリムレーアさん、やさしい…」
なんていう呟きがいくつも聞こえた。
「お前らさっさと病院行け!」
必死に突っ込むと、青くなっていた矢茂目先生が割り込んできた。
「ああ、そうえいば帆村はリリムレーアさんのホスト召使いだったな」
なんだ、その聞きなれない単語は…。
「ふふ、そうなのだ。強がってはいるが、つい先日テツヤは私に絶対服従を誓ったばかりでな」
リリムレーアが軽く世間話をするように言う。
バカめ! 自分から絶対服従なんていうアブないことを言いやがった。これで俺の作戦通り、クラス中からハブ…。