過激に可憐なデッドエンドライブ-39
「いいえ、姫様。こればかりは口を挟まないでくださいまし。これは躾ですの!」
「そ、そうか。すまなかった」
あのリリムレーアが引き下がった。夕子おそるべし。
「若様。夕子様はあの若さで当主代理の座を手に入れたお方。甘く見られない方が身の為ですぞ!」
近くにいた従者に耳打ちされた。
なんとなく背筋が冷えてくる。
「そ、そういえば他の親戚はどうしたんだよ。当主代行だったら夕子より有力な奴は他にも…」
従者が更に顔を近づけて小声で耳打ちした。
「みなさん、遠い島で軟禁状態です」
「どんな独裁者だ! あいつ」
その時、夕子の投げた扇子が従者の頭を直撃した。
「さて、鉄也さん。姫様にちゃんとお仕えなさいね」
「…わかったよ」
ズゴーン!
今度は逆の頬を拳銃の弾が掠めた。
「うれしくなさそうね」
「わ、わーい!」
がたがた震えながら、両手を上げて喜びを表現する。
「まあ、いいでしょう。さて、姫様。しばらくはここに住まわれるということで、他に何かご要望はありますか」
「うーん、今のところはないな。何か情報が得られるまでは動けないし…。ところでテツヤは普段、学校に通っているのか」
「ああ、そうだけど」
というか、リリムレーアがこの家に住むのか。ますますこの家に近づきたくなくなった。
「ふむ。私もそこに通いたいな。人間のしている勉強にも興味がある」
「なっ―」
「まあ、素敵。すぐに手配させますね」
俺の驚愕をよそに、とんとん拍子で話が進んでいく。
にこにこしながら夕子は、コードレスフォンを持ってこさせるとどこかに電話をかけた。
「あ、紅ですけど、文部科学大臣を―」
どんだけ上に言うつもりだよ。
「ってオイ! 学校に行きたいなら、別に俺の学校じゃなくてもいいだろ。他のとこ通えよ」
「ほほう…」
「あらあら…」
思わず突っ込むと、リリムレーアの目がきらりと光り、電話をしていた夕子の手が止まった。
『何か文句あるの?』
この世で最も恐い女性ランキングで一位、二位を争う二人の声がハモった。
「あ、あるよ。大体お前いくつだよ」
暴力には屈しない!
それが男の生き様だと言わんばかりに反抗した。
そして生き地獄が始まった。
…。
……。
………。
数分後、俺は床に倒れていた。
リリムレーアと夕子にボロ雑巾のように殴られ、蹴られ、そして今、俺の頭上で屈強な男達が拳銃を構えている。
「Freeze! Boy…」
その男達は日本人ですらなかった。
「ちなみに、私はお前と同じくらいだと言っただろう」
「あら、姫様ったらお若い」
なぜか艶々している二人が俺を見おろしながら微笑んでいた。
その微笑を下から見つめながら、あっけなく暴力に屈した俺は人生について考えてみることした。
随分と涼しくなった夜の道を一人で歩く。
遠くから聞こえる虫の音が耳に優しい。
「はあ…」
しばらくぶりに一人になって、やっと一息つけた気がする。
安心したけど、これからが不安。
そんな微妙な気持ちだった。
リリムレーアと夕子に別れを告げて、逃げるようにあの魔窟から出てきた。
別れ際に見たリリムレーアはまたなと言って、柔らかな笑顔を残してくれた。
たまに見せるその笑顔がやけに印象的な女だった。