過激に可憐なデッドエンドライブ-37
「柿崎、きさま!」
柿崎の胸倉を思い切り掴み上げる。
「この柿崎が憎いのなら、お気の済むまで殴ればよろしい。しかし、私の申し上げたことは何も間違ってはおりませんぞ!」
柿崎の語気が強く、振り上げた拳を思わず止めてしまった。
「若! こんな老骨に気圧されているようでどうします!」
更に柿崎の叱責が飛ぶ。
「クッ―この」
自分を奮い立たせるように拳を強く握った。
「先代様が倒れた時、何度も若を呼び戻そうとしたのです。しかし、それを止めたのが先代様ご自身でした。あやつの自由にさせておけ、と。」
自由と言う言葉がやけに空虚に感じた。
そうだ、俺は自分の自由でこの家を飛び出したのだ。
しかし、自由とは果たしてそういうものなのだろうか。
俺は、ババアの仕打ちが嫌でしょうがなくて…。
「クソ!」
毒づいて、突き放すように柿崎を放した。
「…若」
どうしようもなく腹が立って、地面を思い切り踏む。
その振動で機材が揺れたが、老婆は死んだようにぴくりともしなかった。
心電図の音だけが老婆の生存を知らせている。
しかし、それは生きているというより、生かされているという感じを受けた。
「どんな状態なんだ?」
「もう、しばらく目を覚まされていません。術者たちの判断ですと、魔力中毒だと」
「クソ」
今度は小さく、呟くように毒づいた。
魔力中毒は術者のほとんどがかかると言われている不治の病だった。
要は術の使いすぎだった。記憶に残る祖母は俺に色々な術を見せてくれた。それが自分の命を削っているともしらずに。
「先代様はご自分の身体が魔力に犯されつつあることをご存じでした。しかし、それでも貴方様に最後の力を使って術を教えようとしたのです。若、どうかそんな先代様のお気持ちを継いで…」
「やめろ!」
柿崎の言葉を遮るように叫んだ。
ピッピッと祖母の生存を知らせる弱々しい電子音が聞こえる。
「…誰も教えてくれなんて頼んでないだろ」
自分でも情けないことを言っているとわかっていた。それでも、俺の人生は俺のもだ。祖母のものじゃない。
「若、お気持ちを強く持たれませ…」
柿崎はそんな俺を叱るでもなく、ただそう言って頭を下げた。
そんな柿崎を見ると、とたんに居心地が悪くなった。一刻も早くこの家を出たい気分だ。
「若様」
そんな時、夕子の従者に呼ばれた。
先ほどの広い茶室に戻ってくると、なぜか夕子とリリムレーアが並んで座っていた。
「鉄也さん、お婆様の様子はいかがでしたか」
「ああ…」
柿崎と揉めたことが尾を引いて、答えが曖昧になった。
「とりあえずは、座ってくださいな」
促されて、二人の下座に腰を下ろす。
あれ、なんで俺が下座なんだ。
「知っているとは思いますけど、改めてご紹介します。こちら、私たちが主と崇める竜神さまのご息女にあらせられるリリムレーア姫様。たった今、あなたの主人になりました。心してお仕えなさい」
「はあ?」
夕子がラリったことを口走っている。その脇では、リリムレーアが今まで以上に偉そうにふんぞり返って。
「よろしく頼む」
なんて言っていた。更に夕子が口を開く。
「ついでに、鏡子伯母様の事を教えておきますね。伯母様は鉄也さんが七歳の時に天界に召還されました。当時の天界を収めていらしたのが姫様のお父上、竜神様です。つまり、伯母様は竜神様に呼ばれて天界に行ったのです」
夕子のお気楽な口調とは裏腹に、述べられていることはとても重要なことであるような気がした。