過激に可憐なデッドエンドライブ-32
「いてえよ! クギが刺さるんだよ、クギが」
「だから選んだと言っているのに。くだらないことをしてないでさっさと門を開けろ」
ちくしょう。ぱかぱか殴りやがって。
盛大に腫れ上がった頭を抑えながらインターホンを押した。
『はい、帆村でございます。どちら様でしょうか』
少しの間を置いて、インターホンからくぐもった声が聞こえた。聞き慣れない女性の声だった。新しく入った使用人だろう。
「…俺だ。鉄也だ」
緊張しているのか、声が少し上ずっていた。
『お待ち申し上げておりました。今、門を開けさせますので、少々お待ちください』
そう告げてインターホンが切れると、すぐに門が開き始めた。
「は? 待っていたって俺何も連絡してないのに…」
はてなと頭を捻っていると、開いた門の中から男の声がした。
「お帰りなさいませ、若様」
見ると祖母の側近で使用人頭の柿崎という老人が立っていた。それどころか、柿崎の背後に何十人という帆村家の使用人達が頭を下げて立ち並んでいた。
『お帰りなさいませ、若様!』
全員が柿崎と同じセリフを叫ぶ。
「…ずいぶん用意がいいな、柿崎。どうして、俺が来ることがわかった?」
柿崎が低い腰を更に低くして答える。
「はっ、我らには優秀な術者が多くおりますゆえ」
「ふん、あの占い師どもかよ」
毎日、星を見てああだこうだ言っている暇人達のことだった。
「お連れ様のことも存じ上げております。丁重に扱うようにと、夕子様が」
ちらりと、俺の背後で偉そうに腕を組んでいるリリムレーアを一瞥して柿崎が言った。
「夕子? なんであいつが。ババアはどうした?」
「…先代様は、もう長いこと床に臥せっておられます。そのため、夕子様が当主代行を」
「なんだと…」
あの妖怪みたいにしぶとかったババアが病気にかかっている姿を想像できない。
「奥で、夕子様がお待ちです。若様が戻られたので、夕子様の肩の荷も降りることでしょう。本当に喜ばしいことです」
「…別に戻ってきたわけじゃねえよ」
柿崎に案内されて、神経質なまでに整備された庭を歩く。
前を通るたびに、脇に控えた使用人達が頭を下げるのが勘に触った。
心の底では形だけの後継ぎと嘲笑っているくせに。
俺に一言もなしで、従兄弟の夕子が当主代行なんてやっているのがいい例だ。
「ぽつぽつと相当の使い手がいるな」
後ろを歩くリリムレーアが呟く。この家の異様な空気に圧倒されず、普段どおり偉そうにしているのはさすがというべきか。
「全国から、優秀な術者たちが集まっております」
古風なロウソクの明りで俺達の足元を照らす柿崎が答えた。
「なるほど。ホムラの威光は千年たっても変わらずということか」
「恐れ入ります」
「千年って、あんたいくつだよ?」
角材が飛んできた。
「お、お姫様は、千年も生きてらっしゃるのですか?」
「そんなわけあるか。この家のことは人に聞いたり、書物で読んだりしたのだ。私の年はお前と大して変わらないよ」
それにしては随分偉そうだった。