過激に可憐なデッドエンドライブ-3
学校を出る頃には、あたりはすっかり暗くなっていた。
一部の部員を除いて、今日も空手部はみんなで仲良く下校である。
遅くまで練習していたせいで、他の生徒はもうほとんど残っていない。
「それにしても、お前らの組手は毎回見ごたえあるよな」
俺の隣を歩くコウサクが頭の後ろで両手を組みながら言った。
コウサクは空手部の中でも比較的小柄な方で、愛敬のある面長の顔をしている。
「なんかテツヤとやるときは、気合が入っちゃうんだよね」
キョウが照れたように首筋を掻く。
鳴滝京。誰にでも優しく、空手部の良心などと呼ばれているが、実は部のエース。悔しいけど、対戦成績を見る限りではそれを認めざるをえない。身長も体格も俺と変わらないのに。
「次は、絶対に負けないからな!」
ついさっきの組手を思い出して、キョウに負け惜しみを言ってしまう。
「わはは、テツはそればっかだな」
コウサクが笑いながら口を挟む。コウサクは基本的にいつも笑っている。
そして、そんな俺達の背後を歩く大男。
鷹山武蔵之介。身長百九十、筋肉質な体躯、空手部部長。その風貌から校内では畏れられている。
「ああ、空中でくるくる回るてっちゃん、かわいかった」
でも、ゲイ。
「ば、ばか、冗談だって! そんな顔すんなよ、お前ら」
本人は冗談だと言う。
「は、はは、だよな…」
でも、みんな信じてない。
「ねえ、あの時なんでテツくん一回転したの?」
鷹山の横を歩く少女が不思議そうに尋ねる。
中川さくら。空手部マネージャーにして、自称空手部のアイドルらしい。女子は一人しかいないので浮きまくっているが、屈託のない性格のためか、いつのまにか溶け込んでいた。
「俺の必殺ローリングソバットを、キョウが上手く受け流したんだよ。もはや合気道の領域だったな、あれ」
思いっきり不機嫌な顔で解説してやる。思い出しただけでも腹が立つ。
「あそこまで上手くいくとは思わなかったけどね。ってさくら、随分カバン重そうだけど?」
「ああ、もうすぐ期末テストだから、オキベンしてたやつ持って帰るの」
期末テスト。そんな言葉は聞こえない。聞きたくもない。
「もうそんな時期か。途中まで持つよ」
そう言いながら、キョウがさくらのカバンを受け取る。
「えへへ、ありがと」
いつものことなので、さくらも遠慮せずにカバンを持ってもらっていた。
キョウはいつもこうだった。別にさくらが女の子だからということではなく、例えば、俺が重いものを持っていたとしても、笑顔で「持ってあげるよ」とこっちが赤面してしまうようなセリフを口にするのだ。
俺には絶対に真似できないことだった。
「ちょっと、待ったあああ!」
そんな光景を見て鷹山が叫んでいた。
「キョウ、さくらだけずるいと思います。だから、てっちゃん、俺のカバンも持って!」
「なんで俺に言うんだよ。嫌に決まってるだろ。なんせお前、修行だとか言ってカバンに鉄アレイ入れてるし」
すかさず拒否する。
「なっ! ヒイキだ、ヒイキだぞ」
なぜかショックを受ける鷹山。まるでぷるぷる震えるチワワ、の真似をするグリズリーのようだった。
「鷹山、キモいぞ!」
俺の背後から身軽になったさくらがNGワードを口にする。
「こ、このメス豚あああ!」
鷹山とさくらはすこぶる仲が悪い。
笑いながら逃げて行くさくらを鷹山がドスドスと追う。