過激に可憐なデッドエンドライブ-22
「だって、もう終電ないし、歩いていくと何時間もかかっちゃうし、タクシー乗る金ないし、俺裸だし…」
「裸はお前が好きでしている事だろう」
あっさりとリリムレーアに突っ込まれた。
「そんなわけねえええ!」
「だが、しかし移動手段がないというのは痛いな。お前、転送術式は使えないのか?」
その言葉に胸がちくりと痛む。
「…使えねえよ」
それどころか、俺には超常現象なんて起こせない。
この能無しが! こんな初歩の術も使えぬのか。
厳しい祖母の声を思い出す。
「では、明日まで待とう。そうだな、明日の正午にここで」
「…ああ」
女の言葉を半分も理解せずに頷いた。
あんな化け物の巣のような家が吐き気がするほど嫌だった。
だから家を飛び出して、やっとの思いで普通の生活を手に入れたのだ。
それをこんな見ず知らずの女の為に捨てるなんてできない。
さっさといなくなって欲しい。つまり、ここでお別れだ。
俺が明日ここに来なければこの女と会うことは二度とない。
「…では、また明日な。言って置くが一秒でも遅れたらオシオキだからな」
そう危ないことを言い残すと、リリムレーアと名乗った灰色の髪の少女はすうっと本当に姿を消した。
「…なんなんだ、あの女」
妙に胸がざわめいた。
「…はっくし」
それはきっと真冬に素っ裸でいるからだろうと確信した。
家に帰って、ベッドに倒れこむとたちまち睡魔に襲われた。
随分疲れていたようだ。
そんなことを思いながら、まどろむ様に眠りに落ちていく。
リリムレーア。
不思議な女だった。
何よりその金色の瞳に見つめられると身体中が沸騰したようになって―。
「!」
突然、激しい痛みに襲われて目を覚ます。
めきめき。
骨が軋む音がする。
「ぐう」
起き上がって胸を押えた。
心臓が焼き付くほど早く脈打っているのだ。
「な、んだ?」
更に信じられないことが起こった。
胸を抑えていた手が、みるみるうちに萎んでいく。
自分の手が、まるで老人のように皺くちゃになっていくのだ。
手だけではない。身体中が萎んでいく。
「うおおおおお!」
慌てて枕もとに置いてあった鏡を見る。
そこに写っていたのは―。
骨と皮だけになった醜いミイラのような自分だった。
「なっ!」
その姿に意識が遠くなっていく。
刹那、脳裏に閃くイメージ。
腕をもがれた。
足の腱を切られた。
皮膚が割れる。
臓物がのた打ち回る。
―死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね!
それはあまりに濃い死のイメージ。
一度も体験したことのないはずの滅びの感覚。
憎い。
誰が?
自分を滅ぼした者が。
その者を許さない。
―それでも、お前は我のモノだ。
誰かの声が聞こえた。
ああ、そうだ。
この声に俺は殺された…。
「!」
突然、イメージが途絶えた。
視界に見覚えのある自分の部屋が写る。
そして、モニターが壊れるように意識がかき消されていった。