SFな彼女 -Science Fiction編--5
「……君達は、こういうことしないの?」
「わたし達には性別という概念がないんです」
彼女の喋り口は何とも頭の足りない女のようだが、ユズリハはまた小難しげな話をし出す。
「わたし達の生殖は、異なる三種類の接合型の細胞が融合してうんぬんかんぬん」
「わ、分かった分かった。で、旅行って……君達は頻繁に地球にやって来てるのか?」
ユズリハは暫し考えたように天井を仰ぎ、頷いた。
「そうですね、今も何人もこちらに来ていますよぉ」
何だって!? おいおい、こいつはチャンスじゃないのか?
何人もの宇宙人が地球上にいるって、それだけで大スクープだ。
もし彼女を捕らえて、テレビ局とかどこかに売り込んだら、莫大な金が手に入るかもしれない!
くくく、と笑う俺の肩を、ユズリハは笑みを浮かべて叩いた。
「それは無理ですよぉ」
「へ?」
「地球人のあなたにこんなことを言うのは気が引けますが、わたし達はあなたの何倍も複雑な生命体であり、あなた達の何倍もの知能を持っているんです」
ユズリハはそう言うと、俺の頬を手のひらでそっと包んだ。
しかしそのあたたかで柔らかな手の感触は、一瞬にして冷たい刃物へと変化する。
「うおわッ!?」
「これだけではありません」
彼女は手を元に戻し、俺から離れたところに立った。
「???」
ユズリハが微笑んだかと思うと、俺の身体が急に自分の意思とは関係になしに動き出す。
勝手に首が右を向き、両手が上に上がる。
「な、何だこれ!?」
俺が声を上げると、身体が元に戻る。
「あなた達の身体はとても単純なので、思考を読んだり、こうして意のままに操ることもできるんですよぉ」
「!」
通りで。
さっきから、何かおかしいと思っていたんだ。
質問しているわけではないのに、ユズリハが疑問に答えてくれていることに。
「だから、わたし達を捕えることはあなた達にはできません」
「……そうみたいだな」
俺は苦笑して、降参というように両手を上げてみせた。
しかし金と栄誉は惜しいが、彼女を抱けるってことだけで、俺にとっちゃ夢みたいなもんだ。
俺のそんな考えを読み取ったのか、くすりとユズリハは笑う。
「それでは、地球に滞在中はここにいてもいいんですね?」
彼女の問いに、俺は頷いた。
「ああ。だけどひとつお願いがあるんだ」
「?」
疑問符を浮かべる彼女。
俺は心の中で呟いた。
(心の中を読まれんのは恥ずかしいから……それだけは止めてくんないかな)
ユズリハははっとした様子でぺこりと頭を下げる。
「ごッ、ごめんなさい!」
「や、何。これから気ィつけてくれりゃいいからさ」
俺はそう言って笑う。
「遅れたけど、俺は梅本正樹って言うんだ」
「マサキさま」
「さま、は止めてくれよ」
俺が苦笑すると、ユズリハが首を振った。
「そう呼ぶのがわたしの親愛のしるしなんです、マサキさま」
ユズリハは俺の名を呼び、ふわりと笑った。
何ていうか、こんな会話最近したことねえなァ。
サークルにはふてぶてしい女や後輩ばかり。ゼミの奴らとはまともに会話したことなどない。
まともに話すのは榊くらいだが、あいつと顔を会わせれば何故かお互いけんか腰だ。
もっともどちらにしても、俺自身顔を出していないせいで会話がほとんどないって話なんだけど。
だから、この時の俺にとっては初々しい彼女との会話は妙に新鮮で、楽しく感じたのだった。