かなわないヒト-2
「樋村さぁ、もっと力ぬいて平気だって。俺らまだ新人だし先輩はムリでも、同期の俺くらい頼ってもバチあたらないって」
それでも首を横に振ると佐伯は吐き出すように言った。
「こんな…ボロボロに泣くまで一人でつっぱんな。笑ってんなよバカ…」
ぐいっと胸に押しつけられて背を撫でられたら驚くほど、わんわん泣けてきた。
小娘って呼ばれてるの、知ってるの。
たくさんしわ寄せが周りにきてて、いたたまれなくて。
でも性格かわいくないし、いらない顰蹙ばっかかっちゃうし…仕事はやってもやっても終わらなくて、そんな仕事の中に嫌がらせが入ってるの、知ってる。
誰に弱音を吐けばいいのかわかんなくて、いつのまにか誰もいなくて意地しかはれなかった。
本当はつらかった。
つらかったんだ。
一通り泣いて落ち着けば恥ずかしさの方が勝ってしまう。
離れがたくて、もっとしがみついていたいのに恥ずかしくてタイミングがとれない。
RURU....RURU....
「ごめん、電話」
「ぁ、うん」
ぼそぼそ話す佐伯の声の端々で、たぶん、好きな子だってわかった。
いっちゃうんだ。
やっぱり、好きだけど、私に佐伯はムリだ。
ムリだ。
チラッとこちらをうかがう佐伯に、にこり笑ってみせる。
だいじょうぶだ。
私は、佐伯にもう恋してない。
これは恋じゃない。
恋じゃないんだ。
なのに、なんで、なんで泣けてくるんだろう。
佐伯まで顔を歪めて、何か携帯に言うと、こっちに来たのが、うつ向いた視界に靴の先でわかった。
「そんなんで…ほっとけるか。樋村ってバカだな」
バカでよかった。
今だけでも佐伯が私のものになるなら、バカでかまわない。
バカな女で、かまわない。
都合のいい女にだってなってやる。
だから今だけでいい。
今だけでもう諦める。
佐伯が、欲しい。
私のものになってほしい。
図ったようにお互い目が合って、自然に口づけあう。