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ふたまわり
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ふたまわり-8

辺りを見回していた三人は、五平に感嘆の声を上げた。
「専務!日本人、ばかりですね。アメ公は、一人も居ないじゃないですか。」
「ハハハ・・。アメリカさんは、別の場所がお好みさ。料亭じゃないと、納得しないさ。こんなキャバレーは、本国に帰ればいつでも行ける。日本じゃなけりゃ味わえない場所に、行きたがるのさ。」
「そうなんですか・・。」
「いらっしゃ〜い。」
「五平ちゃ〜ん!待ってたょぉ・・」
「こんばんわぁ・・」
一どきに、五人の女性が集まってきた。肌をあらわにした━といっても、肩紐の無いドレスに身を包んだ女性たちだが。それでも、三人にとっては驚きだった。目を丸くしている三人に、それぞれ自己紹介をしながら隣に座った。

「ほら、ほら。そんなに畏まるなょ。女性陣、こいつら初めてなんだょ。可愛がってやってくれょ。」
「あらぁ、そうなのぉ。」
「お姉さんに、任せなっ!」
「よ・ろ・し・く・ねっ!」
「うおぉぉ!」
科を作る女給達に、ようやくのことに中山以外の二人は緊張の糸が切れた。他のお客たちのように、女給の肩に手を回した。そして早速に、話に興じ始めた。しかし中山だけは、手を膝の上で結んだまま俯いていた。
「中山、どうした。ここでは、妹のことは忘れろ!ぱぁーっと、行け!」
五平のそんな言葉に、軽く頷くだけで、相変らず無言だった。隣に座ったホステスが、あれこれ話し掛けても相槌を打つだけで、やはり無言だった。

「遅くなっちゃったぁ、ゴメンね。五平ちゃ〜ん、社長はどうしたのぉ?」
少し野太い声で、梅子が若い女の子を連れてやってきた。
「おぉ、ウワバミ梅子が来たぞぉ!社長はなぁ、梅子が恐いから欠勤だとさ。飲み比べで負けたから、もう来ない、とさ。」
「何だい、あの根性なしがぁ!おっ、こっちの若いお兄さん、どうした?元気ないじゃないかぁ。ほらほら、英子、変わりな。鈴、お前そっちだ。それから、松子に昭子、男どもの間に座らせて貰いな。それにしても、このボックスは狭いなぁ。もっと広いボックスが有るだろうにぃ。ははぁ、さてわぁ・・。こら、五平。お前の策略だな?よっしゃぁ、それじゃ体重の軽い女は、男どもの膝に乗っちまえぇ!英子、それから昭子、お前ら乗りな。梅さんは、こっちのお兄さんに乗るかなぁ・・。」
てきぱきと取り仕切る梅子を、五平はニタニタと見つめた。三十を過ぎた姉御肌の梅子は、この店の女給達のまとめ役を勤めている。

「で、どうした?お兄ちゃん。悩み事か、うん?この梅さんに話してみな。一発回答してやるょ。」
中山の首に手を回して、胸の谷間に顔を埋めさせた。途端に、他の二人も
「あぁ、俺もして欲しいぃ!」と、嬌声を上げた。
「お兄ちゃん、悪い女にでも引っかかったか?話してみな。」
無言の中山に代わって、服部が口を開いた。
「妹、なんですょ。病気なんです。胡散臭い占い師のお告げがあったとかで、責められているらしいんです。こいつ、会社を変われ!って、言われてるらしいんです。なっ、そうだょな、中山。」

思いもかけぬ話に、五平は身を乗り出した。
「中山、本当なのか、それは。」
「はぁ・・」
ため息混じりに、中山は頷いた。
「こいつは、辞めたくないんですょ。こいつ、社長に、とことん惚れ抜いているんです。勿論、我々二人もそうですょ。もう、死ぬまで付いて行くつもりなんですから。」
「そうだ!付いていくぞ、俺も。それにしても、中山の奴も可哀相ですょ。稼いだ金の大半を、占い師やら宗教団体に吸い上げられているんですから。『不浄の金を持っていてはいかん!治るものも治らなくなる!』なんて、言われて。」


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