桜が咲く頃〜過去〜-3
何故寺が燃えたのか未だにわからない。
師匠や他の奴らがどうしているのかも…
俺は気付くとある屋敷で寝ていた。
驚いて飛び起きると
「目が覚めたのね?
良かったわぁ。
あなた、起きたわよぉ」
と、一人の女性がいて、奥にいる男性に声をかけた。
呼ばれた男性が来て、俺を見ると、にこっと笑った。
女性も俺に笑いかける。
戸惑う俺に、女性は説明してくれた。
俺はこの人達の屋敷の前で倒れていたらしい。
その時、俺は寺を出るとき刀を置いてきてしまったのに気付いた。
俺はここがどこかわからない。
二人も桜寺を知らないという。
刀を取りに戻ることが出来ないので、俺は二人に、刀が欲しいと言った。
古く錆びたものでいいからと。
「そんなもの、何に使うの?」
女性は不思議そうに尋ねた。
俺が、強くなるため。
人を沢山殺せるよう強くなれば、人に認められて、幸せになれると聞いたから。
そう答えると、ひどく驚き、涙を流した。
「そんなこと、もうしなくていいわ…」
女性は泣きながらそう言い、俺に身よりがないことがわかると、二人は俺を養女として迎え入れてくれた。
小さいながら、この人達を悲しませてはいけないと思い、俺は二度と刀に触れないことを心に決めた。
そして、二人は俺に名前をくれた。
茜、という名前を。
茜というのは、二人のたった一人の子どもの名前で、その子は去年、事故で亡くなったらしい。
俺は、その亡くなった子の代わりだったのだろう。
でも、初めて名前を貰えて、嬉しかった…
人として見てもらえた気がした…
温かいご飯をお腹いっぱい食べ、柔らかい布団で眠る。
誰かと闘うことなく、傷を作ることも、罵声を浴びせられることもなく、俺は幸せだった…
これが幸せなのだと思った。
俺は、二人が何の仕事をしていたかよくわからないが、裕福な家だったのだと思う。
立派なお屋敷で、住み込み人も何人もいた。
当時の俺は、全てが知らないことだらけで、ただただ呆然とするしかなかった。
そんな俺に二人は一つ一つ丁寧に説明してくれた。
俺は、二人の笑顔が見たくて、二人に喜んでもらいたくて、二人の自慢の子になりたくて、読み書き、そろばん、礼儀作法、色々勉強した。