「demande」<槙惣介>-6
「そうだ。PCはありますか?」
「?」
「きちんとご説明させて頂きたいのです」
七香は惣介を書斎へと案内し、彼に言われるがままURLを入力した。
「demande…?」
サイトを見せるのが一番手っ取り早いと惣介は考えた。
「私どもは、一日限りではございますが、お嬢様のご要望にお応えすべく対応しております。
もちろん…伯母様が言われていたようなことも…ご要望とあらばお受けいたします。
ですが、お嬢様自身が嫌がることは一切いたしません!紅茶のサービスもご挨拶代わりのようなもの
ですので、必要なければそうおっしゃって頂いてかまわないのです」
七香は6人のプロフィールを眺めたまま呆けてしまった。
展開が意外だったので頭の中から余分なものが出た気分だった。
いや、その分新しい情報が入ってきて、余計混乱したというべきか。
「そう…。こうゆうシステムなのね。……今日一日、気が気じゃなかったわ。
無理矢理襲われるんじゃないかと思っていたから…怒りと恐怖でぐちゃぐちゃだった」
無理矢理って…。
「そんなことしたら犯罪ですよ、お嬢様」
彼女のぶっ飛んだ発想に思わず笑ってしまった惣介だったが、
思ったよりすんなり理解してもらえたようで、安心した。
彼女は本当に怖かったんだろうな と考えたら、自分が安心を与えなきゃ…と思った。
「あなた…、槙…と言ったかしら?」
「はい。槙 惣介と申します」
「この…左から2番目の方、どんな人なの?」
6人が並ぶプロフィールの、左から2番目は「諏訪 晃」だった。
なるほど…諏訪サンが好みか。
「そうですね…。私が知る限り、とてもクールでかっこいい方ですよ。
背が高くてスタイルが抜群ですし、とても頭が良いと聞いております」
「頭がいいって…どのレベル?」
「国内トップクラスの大学を首席で卒業したとかで」
「…っ!本当!?」
今日一番の食いつきように、惣介は目を見開いた。
―医者を目指して医学部に入った七香だったが、最高峰と言われる大学はさすがに厳しく、
今の彼女は取り残されないよう必死だった。高校ではいつもトップで余裕があったのに、
大学へと進学した途端、自分のレベルが急に落下したように感じていた。
いつの間にか募った不安は恐怖に変わり、焦りだけが背中をつつく。
また、そのレベルを満足に教えることができる家庭教師など、なかなか見つからなかったし、
自分でどんなに勉強しても、ぶつかる壁のほうが大きくて、苛々はつのるばかりだった。
だから、こんな優秀な人物がいると知っただけで、すがりたい気持ちになる。