「demande」<槙惣介>-2
――――――――――――――
「ナナちゃーん!私もう行くからねー?」
「待ってよオバちゃん!私納得したわけじゃない!!」
手にしていた本に栞を挟み、伯母のもとへ最終抗議に向かう。
「男の子と遊ぶのって楽しいものよー?あっ、またそんな分厚い本持って…。
勉強ばかりしてるから彼氏の一人もできないんじゃない。青春しなさい!
せっかくの美人がもったいないじゃない♪」
「私に遊んでる暇なんてないの!それに…男なんかに興味ないって言ったじゃない!
今は勉強に打ち込むこと以外何も考えてない!今日だって帝匡大卒の現役医師が
勉強を見てくれるっていうから…信じて家にいたのにっ!」
七香の伯母は、嘘ついたことをつっつかれ、バツが悪そうにいそいそと玄関へと向かう。
「まあまあ!たかだか数時間のことじゃない♪
それに、もしかしたら本当に頭のイイ男の子が来るかもしれないわよー?
あ、顔がいいのは保証するけど♪じゃ、仲良く過ごしてねー!」
バタン!!
「……頭のいい出張ホストがいるかー!!!」
七香はもってた本を玄関のドアに投げつけた。
本は勢いよく落下。挟んでおいた栞は持ち場を離れた。
それを見計らったようにもう一度ドアが開き、七香は驚いてひっくり返りそうになった。
「お、オバちゃん……!!」
「言い忘れてたー。高いレンタル料払ったんだから、有意義に使ってね。そ・れ・と…
来る前に逃げ出そうなんて考えたら………どうなるかわかってるわね?じゃ、いってきまーす♪」
ベビーピンクの革手袋をひらつかせ、足取り軽くデートに向う43歳の伯母。
海外に出てる両親に代わって、今は彼女が七香のお目付け役なのだが…
どう見ても伯母のほうが素行が悪かった。
オバちゃん…もうイヤ…。
オバちゃんに逆らえない自分は…もっとイヤ!!
――――――――――――――――――――
「さて…と、この家か。…って、でかい家だなー…」
この門扉、何メートルあるんだよ…。
ここ…絶対ホンモノの執事がいるよ…。ついでにメイドもいるな。
要さんや諏訪さんならともかく…俺みたいなぺーぺーが来ていいんだろうか?
緊張が増したところで行かないわけにはいかず、惣介はインターフォンを押した。