「demande」<槙惣介>-14
「さて…お話でもしましょうか。こうして横になっていれば、そのうち気分も良くなりますよ」
惣介の微笑みはさっきと変わらなく、穏やかなままだった。
あ………
…そうなんだ…。
そんなつもりはないのね。よかっ……たー…
七香の目に熱いものが溜まっていく。
惣介に見られたくなかったが、堪えきれず顔を覆った。
「お嬢様……」
「ご、ごめ…なさ…。なんでもな…」
「なんでもないならどうして泣かれるのですか…。やっぱり私が触れたことが嫌でしたか…?」
「ちが………。……っく」
…さすがに今の状況はわかんない…。
どうしたというんだろう…?何がいけなかったんだ…。
お姫様抱っこが嫌だったのか?それとも寝室に案内させたことを後悔してるのか?
もしかしたら…襲われると思ってる?いや、わざわざ「お話でもしましょう」と
告げたんだ。それは…ないだろ。でも、男と寝室で二人っきりという状況が怖くなったとか…。
あれこれ考えながらも、今泣いている彼女をなんとかして鎮めてあげたかった。
泣いている彼女に触れたかった。涙を拭ってあげたかったし、抱きしめてあげたかった…。
でも、理由はわからないけど原因は自分だろう と考えたら、手は動かすことができなかった。
「外に…出ていましょうか…?」
惣介に言える言葉はこれくらいしかなかった。けれど、七香は大きく首を振った。
「い…いい。ホント…ごめん。なんでもないから…」
「お嬢様、ちゃんとおっしゃって下さい…。でないと私は…とうとう嫌われてしまったんだと
思うしかありません…。」
「ちが…。嫌いじゃ…ない」
「では、どうして涙を…?お願いですから…教えていただけませんか…」
抱いてほしいなんて言えるハズもない。
どうして抱いてくれないの? なんて聞けるハズもない。
自分には色気もなくて、抱く気にならないのかな…。
さっき、規則があるって言ってたから、
もしかして、私から言わないとしてくれないのかな…。
『嫌いなんかじゃない。ここから出ていくなんて言わないで。
もう一度私に触れてほしい…。抱いて…ほしい…!』
止まらない涙で視界がぼやけていたけど、七香は上体を起こし、惣介に抱きついた。
自分の今の気持ちが…言わずとも伝わりますようにと…キツく。
惣介は七香の頭を支えるように受け止め、彼女よりもっと強く抱きしめた。
「…もし、私がお嬢様のことを欲したら、お嬢様の涙は止まりますか…?
それとも…増やしてしまうのでしょうか…?」
「……私じゃ…だめ…なんでしょ…?」
耳元で、震えた声が小さく響く。