「interview」-6
部屋は、ひどく蒸し暑かった……。呼吸をする度に、肺の中が熱を帯びていくようでした。わたしは周囲を見渡しました。不思議に、それが夢であるという自覚がありましたから、それほど慌てることはありませんでした。自分の置かれた状況に気がついてから、五分も経った頃でしょうか。突然、ギ……、という何かが軋むような音が聞こえました。それは、天井に取り付けられた滑車の上を、ロープが移動する音でした。上を見上げたまま、わたしは固唾を飲みました。しばらくして再び、ギ……と呻くようになりながらロープは動きました。ぴんと張った太いロープを、おそるおそる視線でたどりました。開いた床板に、それは真っ直ぐ続いておりました。
頭上の物音は、しだいに間隔を狭めながらなり続くようになりました。わたし心臓は、もはやいつ破裂してもおかしくないほど激しく荒れ狂っておりました。もちろん、恐怖からです。
ロープが動き、滑車が回ることの意味について、お気づきですか。
……そうです。床板の下で吊るし首にされているはず人間が動いているということです。
ありえないことですが、しかし常識が通用しないのが夢ですから。では、それが何者であるかは……はい、そうですね。わたしもそう思います。わたしの目の前で縦に伸びたロープの先にいるのは、間違いなくKでしょう。いえ、まだ確認はしておりません。夢の中では、両足の甲に杭でも打ち込まれたかのように、わたしはその場を一歩も動くことが出来ないのです。
毎晩、滑車は回転を続けました。床板に遮られた向こう側から、Kが徐々に近づいてくる気配を感じました。情けない話ですが、わたしは恐怖におののきながら、悲鳴を上げ、泣き声を上げ、もう勘弁して惜しいと彼に懇願しました。返事はありませんでした。
ただ、ひたすらギ……ギ……ギ……という音だけが鼓膜を響かせておりました。Kがロープを上ってくる。それはわたしに死が迫っていることでもあります。分かりますか。こうしている今でも、わたしに残された時間は落ちる砂時計のように確実に減っているのです。この恐怖、絶望が分かりますか。
……そして、つい昨夜のことです。いや、これは今朝方でしょうか。夢の最後に滑車はぴたりと止まりました。わたしはうまくかみ合わない歯を懸命に食いしばりながら、ロープの末端を見つめました。もはや何かにすがりついて祈るわけでもなく、ただ、目の前にある絶望を待っているだけでした。間もなくして、指先が、見えました。……そうです。Kが夢に出てきてから、今晩が七日目。きっと、彼はあの床の底から姿を現すのでしょう。わたしの命を奪うために……。
話は、以上です。これが、わたしの伝えたかったことです。ああ……録音はもう少しだけ続けていていただけますか。申し訳ありません。補足があるのです。……ええ、まあ、たいしたことではないのですが。ただ、なぜ今回こうして記者さんに取材までお願いしたかということです。わたしね、気付いたんですよ。どうして保安課長の次に、このわたしがこんな目にあっているのか。
あなたは、お気づきになりましたか?
……そうですね。これだけではちょっと分かりにくいかもしれません。
答えは、話、です。