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「interview」
【ホラー その他小説】

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「interview」-5

          4

 あなたは呪いと聞いて、なにを想像しますか。
 ……なるほど。確かに、死んだはずの人間が目の前に現れるというのは恐怖以外の何者でもないですね。ドラマでも似たようなシーンがよくあるかと思います。窓に映ったり鏡に映ったり。
 いえ。私の言う呪いは違います。厳密には、違う部分は一点のみなのですが。
 ……最初は、保安課長でした。
 あれは、Kの死刑からちょうど七日目の朝でした。ちょうど所内のトイレでわたしたちは顔を合わせたのですが、彼に声をかけられ振り返った瞬間、わたしは自分の目を疑いました。茶褐色の肌と骨格が分かるほど落ち窪んだ目玉、白髪交じりの髪の毛はついさっき起きたようにはねあがり、唇はほとんど白く変色し、ひび割れ、スーツやネクタイも何日も替えていないのが明らかに分かるくらいよれておりまして……人一倍、身だしなみに気をつけていた彼からはとても想像もつかないような格好で、わたしの前に立っていたのです。情けない話ですが、驚きのあまり声もでませんでした。
 ですから、あれは会話と言うより彼の独り言のようでした。
 ところで顔色がすぐれないようですが、大丈夫ですか。なんでしたら、追加でなにか注文しましょうか。……ああ、確かにあまり気持ちのいい話でもありませんから。
ですが、これを記事に出来ると判断したからこそ、こうしてわたしと会っていただいているわけですから。もう少し辛抱していただけますか。はい。ありがとうございます。それでは、続けさせていただきます。
 トイレには、わたしたち二人の他は誰もおりませんでした。静まり返った場所で、彼の声だけがわたしの鼓膜を振動させておりました。彼は、Kの名前を何度も口にしました。毎晩、夢に出てくるのだと。最初は、刑執行の罪の意識がそうさせるのだと思いました。そういうことは珍しいことではありませんし、わたしにも過去に何度か経験がありましたから。しかし保安課長の狼狽振りは、はっきり申し上げて異常をきたした者のそれとしか言いようがありませんでした。そうです。彼は、切羽詰りながら自分はもうすぐ死ぬのだと……いえ、殺されるのだと訴えておりました。そして、わたしは肩をわしづかみにされながら何度もしつこく助けを求められました。しかし、いったいわたしに何が出来たというのでしょう。現実になにか起きたのなら、わたしもなんとかいたしましょう。しかしそれが夢の中のこととなると、助けることなど出来るはずもない。まして、そこに現れる亡霊を消し去ることなど、普通の人間には不可能なことですから。
 ……彼ですか?
 ……わたしに助けを求めてきた、その晩に亡くなりました。……いえ、事故などでなく……はい、そうです。第一発見者は彼の奥様でした。何度呼んでも姿を見せない夫のことが心配になって、見に行ったところ、自室で首を吊っていたそうです。……はい、遺書も残されていたそうです。仕事のストレスが引き起こしたノイローゼとして事は済まされましたが、実際のところ、それは間違いであったとわたしは思っております。そうではありません。あれは、確かに彼が自分から首を吊ったのでしょう。
ただ……そこまで追い詰めたのは、あの男だと、わたしは確信しております。
 そうです。Kです。何故そこまで言い切れるかと、あなたはまだお気づきにならないんですか。よく、見てください。わたしのこの姿を。最初にわたしを目にした時、あなたはどんな印象をわたしに持ったのか。この顔色は、この髪の毛は、ほら……この唇やシャツの袖など、どうなっているでしょう。
 ……ええ、そうです。
 わたしの夢にも、現れるようになりました。保安課長から、Kの話を聞いた、その晩からです。ええ……そうです。彼が自殺した日でもあります。はじめは、死刑所にわたし一人いるところからでした。備えられた蛍光灯の光が弱いため辺りは薄暗く、また天井が低いせいか、言いようのない圧迫感があったのを覚えております。


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