「interview」-4
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ここで、少しKの話をしましょう。
彼は、ごく普通の夫婦の間に生まれ、どこにでもいる子供と同じ環境の中で育ちました。中学も高校はもちろん大学まで出て、友達もそれなりに多かったそうです。それほど社交的な性格ではなかったようですが、そんな若者はどこにだっております。
決して珍しくない。テレビだったか新聞だったかは忘れてしまいましたが、Kが逮捕されたあと、彼の知人たちは口を揃えて信じられないとコメントしていたのをあなたはご存知ですか。ええ、そうですね。何かの雑誌だったかもしれない。わたしには、その知人の言葉のほうが信じられませんでしたよ。
だってそうではないですか。Kは凶悪な殺人犯でした。動機はあえてここでは語りませんが、彼のとった行動はどう考えても精神異常者そのものでしたから。とても、普通の生活に身を置いていたなんて、わたしには想像さえ難しいのです。
……はい。たしかに、あなたのおっしゃることももっともだと思います。人の心に潜む闇など、他人には見えないものでしょうから。
ところで、あなたは死刑執行前に死刑囚が自分や被害者のために祈る時間が与えられることはご存知でしょうか。……ええ、本当です。実は遺書を書く時間も与えられるんですよ。いえ、それほど長くはありません。せいぜい五分かそこらです。死刑場には祭壇も用意されておりまして、とはいってもそれほど立派なものではありませんが。祭壇は回転式で、それが死刑囚の信仰に合わせて準備されるのです。
……ええ。Kにも、その時間は与えられました。
いえ、書いてはおりません。祈りもなかったそうです。ただ、彼は一言、その場にいる全員に向けて、こう言い放ったそうです。
貴様ら全員、呪われるがいい。
低く、小さかったはずなのに、その声は全員の耳にはっきり届いたそうです。ええ。刑の執行は、それからすぐに行われました。首に縄を巻かれたKは両腕を後ろに回した格好で縛られ、同じように両足も縛られ、目隠しもされ、私たちがスイッチを押した瞬間、四メートル下へと落下したのです。
下の階には刑務官、医官、記録係りが待機しておりました。そうです。死刑囚の死亡を確認しなければなりませんから。彼は落下と同時に瞬間的に意識が飛び、そのまま即死したそうです。なんともあっけない話です。どんなに虚勢を張ったところで結局はKもわたしたちと同じ人間だったのです。死刑執行後に缶コーヒーを片手に保安課長とも、そんな会話を交わした覚えがあります。その時は、わたしたちは、まだお互いの身に起きる災いのことなど、もちろん知る由もありませんでした。
……はい。
そうです。
災いです……いえ、呪い、と呼ぶべきかもしれません。