LUCA-4
あいつって、修君? そう。そいつ。そうしたら、ね、赤ちゃんと、あいつと三人で幸せになるはずだったんだけど、あいつったら十五万円を私に渡してこれで終わりにしようって言うから。嘘だったの。あいつは私の中に出すとき、いつも愛してるって言ってくれたのに。そんなのってないじゃない。
それで赤ちゃんはどうしたの? 殺しちゃった。堕ろしたのか。堕ろす? 殺したのよ。バカ、そういう言い方はよせよ。キャハハ。キャハハ。何言ってるの? 同じ意味よ。言い方が違うだけで、それで正当化しようとする想像力のない人たちと一緒にしないで。ママなんて、中絶した私を気の毒に思ったのか、今子供を生んでも、ちゃんと育てられなかったんじゃないかなって言うんだよ。キャハハ。こんなに泣いて、後悔して、苦しんで。きっと赤ちゃんはママの事は恨んでないよって、言ってた。殺したなんて思っちゃ駄目よって。産んであげられなかっただけなのよって。笑っちゃう。キャハハ。いくら言い方を変えても、本質的なことってね、変わらないのよ。私が欲しいのは、救いじゃないの。私が泣いていたのは、あの男に捨てられたから。体が傷ついちゃったから。私は私のために泣いたの。あの赤ちゃんのせいじゃないの。私、私、私、私。私って何? そんなに私は私が大事? ううん。大事じゃない。私は人殺しだもの。それも、私に愛されることを望んだ赤ちゃんを、殺せと命令した私は、もう人間じゃない。もしかしたら最初から人間なんかじゃなかったのかも。ねえ、だから修も私を捨てたのかな。
そんな事ない、と僕は言う。でも、その言葉ももしかしたら嘘なのかもしれない。君は確かに間違ったことをした。でも、そうまでして手に入れた命じゃないか。君は、まだ生きているんだと、またどっかで聞いたことしかいえない僕は、やっぱり僕自身のためにそう言っている。僕は彼女に、自分自身を大切に思って欲しくて、彼女の殺した赤ちゃんのことなんてこれっぽっちも考えないで、また都合のいい事を言っている。ねえ、殺して。自分じゃ上手くできないの。あなたから生えている、その三本目の腕で、私を絞め殺して。僕は彼女のヴァ○ナの奥まで突き上げながら、彼女の首に当てた手に力を込める。三本目の腕なんかじゃなく、それは確かに僕自身の腕。快感の波が襲う。彼女の顔が、徐々に血色を失っていく。彼女はもう、喘いでいるのか苦しんでいるのか分からない。雨の音が聞こえる。彼女の吐息が聞こえなくなる。僕だけが、はあはあと息を吐き出している。見ると、彼女の口から舌がはみ出している。精液を彼女の中に注ぐ。動きを止める。彼女は死んでいる。僕が離れると、肉の塊となった女神のヴァ○ナから精液がたれ落ちる。僕は泣く。愛してると呟く。彼女は何も言わない。「嘘つき」とも、もう言わない。
僕は彼女の死体の隣で、煙草を一本吸った。雨は強まるばかりだ。そして、ベッドに潜りこむと、ぼんやりと彼女の死に顔を見つめながら、雨の音を聴いた。そうしているうち、僕は眠りにつく。僕はやがて目覚めるだろう。しかるべき時間が経てば。でも、彼女は目覚めない。彼女はどこへ行ってしまったのだろう?