『お宝は永久に眠る2』-2
「国王殿の気紛れの虫が騒いだというのか、お前達も振り回されている側の人間なのだろうな」
クリスティナ王国が国王による半独裁政権であるが故に、領民は否応なく国王の命に従わなくてはならない。しかしまた、ジェイド達もこうした仕事に対して出来る限り人員を削減したいのだ。
そこで白羽の矢が立ったのが、ジェイドと深い仲であったトレジャーハンターのメニール。そして、荒稼ぎしている彼女を動かす条件として、突き付けられたのが委任状に書かれた最後の一文、
『この任務を引き受けるならば、任務中におけるジェイド・ユウスの扱いの全権を貴殿に託す』
である。
要約するなら、この仕事中はジェイドを好きなように使っても良い。ということ。
「俺は物か? あの人は、本当に部下扱いが荒い……」
勝手にメニールの道具扱いされて、嘆息を飲み込めないジェイド。
「嘆いていても仕方あるまい。手っ取り早く事を終わらせて、こんな暑いところから帰ろう」
愚痴を言うのも聞くのも飽き飽きした、と言いたげにメニールが話を打ち切る。
確かに、いつまでもこんな暑いところにいては頭が参ってしまう。それに、砂漠という秘境にいるのは原住民族や旅人だけではない。
全く生物を見ない不毛の大地にも思えるが、奴らはただこの猛暑から逃れるために隠れているだけだ。
夜が更け、極熱から極寒の大地へと変わった時、ここぞとばかりに姿を現して獲物を捕食する。だから誰も夜の砂漠には出ない。昼間の砂漠でも、知らずに奴らの住処に近づけば命はないとされる。
砂漠に来るのが始めてであるジェイドやメニールは文献でしか見たことがないが、人一人を丸呑みにする化け物のような生物もいるらしい。
そうした異形の生物達を、人は総称して[クリーチャー]と呼ぶ。
今もまた、その[クリーチャー]の群れが遠巻きに通り過ぎてゆく。
「ほう、あれが争っている民族どもか」
舞い上がる砂埃を眺めて、メニールが感嘆したように呟く。
全身をカルシウム成分の甲冑で纏った、中型の恐竜みたいな白色の[クリーチャー]に人が乗って駆け抜けて行った。
原住民族らしき褐色の肌をした集団と、別の国軍であろう一団が砂埃の中で刃を交える。矢が飛び交い、時折赤い閃光が砂埃を染める。他国軍が数百いる中で、原住民族軍は半分にも及ばぬ百程度である。
「[ヒューラ]だな。街が近い証拠だ」
[ヒューラ]。この世界に跋扈する[クリーチャー]の中でも割と有名所で、草原に限らず荒野や湿地地帯にも見られる――凶悪な顔つきに似合わず草食性の竜獣――種だ。温厚な性質のため飼い慣らすのが楽で、こうして移動用として使われることが多い。ただ、全身のほとんどがカルシウム成分の甲冑であり、馬力よりも身のこなしの軽さが売りであるために[ヒューラ]は人家の近くで飼育される。
「どうやら、二、三日中に目的を果たさなくちゃいけないみたいだな」
目前の争いを横目に、ジェイドが急ぎ足で歩き出そうとする。
例え名目が抗争の収拾することにあっても、争いの間に入ったところで意味はない。争いの根源である『サボティージュの揺り籠』を片付けない限り、この抗争は止まらないだろう。
それぐらいはメニールも理解しているが、先に行くジェイドを追おうとせず立ち止まったままだ。
「どうした、街は近いんだぞ?」
歩き出そうとしないメニールに、ジェイドが怪訝そうに問いかける。
「まあ、待て。敵情視察も任務の一環だ。少しぐらい様子を見て行っても、日暮れ前には着けるのだろ? 賭けをしよう。この勝負どちらが勝つかに、街に着いてからの冷たい一杯を」
「……じゃあ、他国軍の方に賭けるよ」
メニールの申し出に、溜息を吐いてから渋々と選択する。
普段から明朗な女性ではあるが、時折おかしなことに興味を注ぐ酔狂な性格でもある。まさか、血の流れる光景に対して賭けをしようなどとのたまうとは、ジェイドも予想していなかった。
それでも何かに対してこうなると、梃子でも動かないので素直に応じるしかない。