双子月5〜ふたり〜-7
「東条!おまえっ・・・!」
「藤原葉月、いいところに来た。」
葉月とは正反対に、ごく冷静な東条は、とくに驚いた様子もなく、白衣を脱ぐとそれをさりげなく美月にかけてやった。
動揺している美月は気がつきもせずされるがままだが、東条が美月にするその仕草は、まるで愛しいものをそっと気遣う優しい行為のように見え、葉月はますます分からなくなった。
「どういうことなんだよ!」
「美月はおまえのためにこうして俺の言いなりになっている。」
東条は事の経緯について語りだした。
屋上での一部始終を見てしまったこと。
そのことを含め、いろいろと葉月のしてきたことを知っている東条が、学校に何も言わないよう口止めをしようとしたこと。そして、東条が示した交換条件の内容。
「じゃあ美月は、私が学校から処分されないようにかばってくれたっていうこと?こんなことまでして・・・。」
葉月が美月を見るのと、美月が顔をあげるタイミングが重なり、二人の目線がぶつかった。二人とも困惑した目で短く見つめあい、最初に視線を外したのは美月だった。
「でもっ・・・これは違う・・・」
顔を真っ赤にし、美月は頭を大きく左右に振った。
「いいや、違わない。そもそも葉月の件がなければ、こんなことにはならなかったはずだ。」
何かを言いかけた美月を、東条が制する。美月は何も言い返せずに黙ってしまった。
「・・・なんでかばったりなんか・・・」
ぽつりと葉月が呟いた。
「私に構わないで!」
感情が堰を切ったようにあふれだすのを葉月は止めることができなかった。
「今更、家族面しないで!あんたなんか、私が今までどんなふうに・・・どんな思いで生きてきたかなんて知らないくせに!」
家族を失い、大好きだった父にも裏切られ、ずっと1人だった。
もうそんなことで涙なんか出ない。
しかし、今までずっと言えなかった思いが溢れた。
「葉月・・・私たち、双子でしょ?違う運命を辿ってしまうことになったけど、それでも葉月は私の大切な半身だよ。」
「私はもう他人だと思ってる!」
葉月が吐き捨てるように言った。
冷たく放たれたその言葉が美月に深く突き刺さる。
少しの沈黙の後に、美月の目から涙が溢れた。
「葉月、ではなぜ怒った?他人のためになぜそんなにむきになる?」
今まで静観していた東条が口を開く。
「双子の片割れがこんなことをさせられて、黙っていられなかったんじゃないのか?」
「・・・っ!」
いつもと変わらない冷静な物言いだが、それには言い訳を許さないような強さがあった。
葉月は悔しそうに唇を噛み締め、東条を睨みつける。