双子月5〜ふたり〜-6
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体育館。
東条はしばらく入口で中の様子を伺い、ほどなくして中に入って行った。
葉月は首を傾げながら、さっきまで東条が立っていたところに立って、中の様子をうかがった。
体育館には誰もいない。東条の姿も見えなくなったが、倉庫の扉が開いている。たぶんそこに入って行ったのだろう。東条の不可解な行動にますます首を傾げた。
(東条ってホントに何者なんだろ?)
ただの保健医が、いち生徒の行為に干渉してきたり、こんな不可解な行動をしたりするだろうか・・・葉月が思考を巡らせていると、中から微かな声がした。
「・・・ぁ・・・ぁん」
微かに聞こえてきたのは若い女の甘ったるい声だった。
きっと生徒だろう。
(・・・東条。)
人に注意しておいて、こんなところで生徒を喰ってんのかよ。
葉月は妙にがっかりしたような気持ちがこみ上げ、倉庫へと歩みを進めた。
倉庫の扉の影に身を潜め、中の様子をうかがうと、薄暗い中に立っている東条の姿がぼんやりと見ることができる。相手の生徒は物影になっているようだ。しかし、話し声は聞こえた。
東条は腕を組み、眺めるだけで手は出していないようだが、甘やかな声は絶え絶えに響く。
「なにが違う?そんなに濡れてるじゃないか、美月。」
(・・・美月?!)
東条ははっきりとその名を呼んだ。思いもよらない、その名前を。
思わず暗がりに目を凝らしてみても、その姿は見えなかった。
「・・・っあぁ・・・東条、先生っ・・・。」
その声に葉月はゾクリとした。
自分と瓜二つの声。
双子の姉の美月だ。
葉月は頭が真っ白になってしまった。
(どうして美月が!)
「美月っ?!」
何も考えられなくなった葉月は、次の瞬間扉の影から姿を表し、叫んでいた。
「・・・葉月?!」
狼狽した声ははっきりと葉月の名を呼んだ。
間違いなく美月だ。
「何やってんだよ・・・何やってんだよ!美月!」
様々な用具が行く手を邪魔をするのもかまわずに、葉月は声の元へ向かう。そして、積み上げられたマットの上で座っている美月の姿を目で捉えた。
乱れた制服。
スカートはめくれあがり、白い太ももが丸見えで、尻をついている辺りは濡れて染みがひろがっている。
葉月は、美月のそんな姿に怒りがこみ上げ、東条を睨みつけた。