想いの輝く場所（後編）-5
「オレ…ただ奏子が側にいてくれたら、それだけでいい」
悠の口から漏れた切ない言葉。
私はその言葉に弾かれたように、悠の胸に飛び込んだ。
「私…っ、悠が…離れて行ってしまったらどうしようって不安で…ごめんなさい」
「うん、そー思ってるんだろうなって思ったよ」
頭を優しく撫でる。
「奏子…もう予行練習とか言わないで。そりゃあ未来の事はどうなるかわからないけど。オレは奏子と一緒にいたいって思ってる。それだけは疑わないで欲しい」
「うん…、悠は私よりよっぽど大人ね。私は…これでダメになるんじゃないかって不安だったのに」
私の言葉に悠は軽く笑って、
「オレだって不安くらいはあったけど。こんなんでダメになるような柔な関係じゃないと思ってるから」
「…ありがとう」
嬉しさで、なんて言っていいかわからない。やっとのことで出た感謝のきもち。
「どーいたしまして」
頭を優しく撫でてくれる悠のダウンジャケットに顔を埋めていると。
悠が私の肩を少し離して、顔を近づけて来る。
…キスかな、と思って瞼を閉じようとすると、悠が盛大なくしゃみを連発した。
「…帰る？」
私が言うと口元を手で押さえバツが悪そうに目をそらす。
「帰りましょ、寒いし」
少し鼻をすすった悠は、いつものような悪戯っ子の顔になって。
「暖めてくれんの？奏子サン」
「…悠が言うとイヤラシイのよね」
「わ、傷つくなぁ、でも嫌いじゃないくせに。っていうかむしろ好きでしょ」
……いつもの調子が戻って来たようね。
「もうっ知らない！」
私は地下鉄の駅へ向けて足早に歩を進める。
少し後ろを歩いていた悠が、私に追い付いて手を握ってきた。
そこから温もりが伝わる。
「温かいでしょ」
悠が言いながら頬を緩める。
悠につられて私も思わず笑顔になった。
こんなたわいもないやり取りが愛おしく感じる。
いつまでも、こんな風に。
二人で歩いて行けたらいい。