殺人生活-3
三
もうどれくらい歩いたことだろう。誰を“餌”に選べばいいのか。誰を殺せばいいのか。そんなこと、今の彼らには見当もつかなかった。行く当てもなくぶらぶらと歩き、やがて疲れ果て二人で公園のベンチに腰掛けた。
『どうすれば……。』
今までこれほどやんちゃしてきて、人を殺すなんてやったこともないことだ。ビビってしまうのは当然だろう。麗亜は考えたくもなかったが、必死に自分の嫌いな人間の顔を思い浮かべた。理科の担任の白川。クラスのいじめられっこ、金本。隣のクラスの番長、曾根崎。必死に思い浮かべるが、どれも殺すとなるとやはりその気にはなれない。すると、勇太が静かに言った。
『じゃあ、俺が決めていいか。』
勇太は今までになかったように真剣な顔つきで、揺るがない意志がひしひしと伝わってきた。
『俺の、母親を殺ろう。』
『?』
『オマエだって知ってんだろ。俺の母親とは血がつながってないこと。あいつは、親父との間に生まれた俺の弟だけかわいがりやがって、俺は毎日コンビニの弁当を自分の部屋で食べるだけの生活だ。前に一度、俺が事故って入院したときも、死んでないならいいんじゃない、と一度もお見舞いにも来ないで周りの人間にも足止めを食らわせた。』
麗亜も知っていることではあった。しかし、ここまでこいつの胸中を詳しく聞いたのは初めてで、そこまでひどいとは思っていなかった。
『オマエ、ホントにいいのか。』
『当たり前だ。』
勇太の心は決まっていた。もう何を言っても揺るがないだろう。麗亜は小さく頷き、立ち上がった。
『じゃあ、行くか。』
勇太一度頷いてから立ち上がり、二人で勇太の家へと向かった。
勇太の家は豪華な一軒家で、セキュリティが普通の家よりは断然しっかりとしていた。そのため、玄関より十メートル手前にある門でインターホンを押し、中にいる家政婦が大丈夫だと判断した時点で門の鍵を開ける。自動で開かれる門は、ゆっくりと一度開いたかと思うと再び閉まりはじめた。何度来てもこの家は驚く。関心する思いで麗亜は家全体を眺めた。
今度は、門の十メートル先にある玄関の扉に再びインターホンを押して、家政婦が確認したら後鉄格子を開き、三個もある鍵を全て取り外しやっと玄関へたどり着けるのだった。
この家はまた玄関も広く、玄関だけで四畳半ほどはある。こんな贅沢な家庭に住めるのは、それもこれも全て有名医者である父親のおかげであった。
『ぼっちゃま、お帰りなさいませ。』
『ああ。』
二十代後半くらいのかわいらしい女性だった。家にこんなかわいい家政婦もいて勇太は幸せ者だな、と麗亜は思った。
『母さんは?』
『美智子さんなら、御二階でワープロをしてらっしゃいます。』
『ワープロ?』
『ええ。なんでも、歌が作りたいらしくて歌詞制作に取り組んでいるようですよ。』
そんなことも言っていたな、と思い返すと同時に、あの人は何をしてるんだ、と情けない気持ちになった。
二階に上がり、とりあえず二人とも勇太の部屋へ入った。
『で、どうやって殺すんだよ。』
『まず二人で母さんに話しかける。その後、オマエが適当に話を盛り上げてくれ。その間に俺は下に行くフリをしてナイフをとるから、その間は話し続けるんだ。そしたら、そう言えばあいつがいませんね、と言い、その直後にあっ、と言って窓側を指さす。その瞬間に俺が後ろから飛び出てきて、母親が窓側を見ている隙に刺し殺す。』
何とも大胆な発想を瞬時に思いつくことができるのは、これまで積み重ねてきた悪行の数々のおかげであった。