命の尊厳〜a short story〜-3
(父のイルスンから受け継いだこの国の人々は、人としての死さえも私から奪うのか…)
実際、望んでいるのは国民では無かった。既得権益を死守しようとする軍や特権階級の者達だったのだ。
それは、あまりに惨い光景だった。
30センチ四方の金属皿のようなモノにジョンイルは首を据えられ、それを高さ1,4メートルほどの台座に乗せてある。首の真下には穴が開けられ、大小数百本のチューブが首と繋がっていた。
チューブは途中まで束ねられた後、扇形に広げられてジョンイルの数メートル先に設置された金属の箱へと続いていた。
箱は巨大で、高さ2メートル、幅10メートルはあり、見た目は一体型のロッカーを思わせる。ジョンイルとロッカーの間はガラスのような遮蔽板が設けてあった。
その日からジョンイルの生活は一変した。日がな1日、彼はこの部屋で過ごし、かいがいしい側近達の世話を受けていた。
「閣下、食事をお持ちしました」
今日も側近のひとりが入って来た。ジョンイルにとって、腹が空くはずも無いのだが人間としての習慣から、食事は無くてはならないモノだった。
側近がスプーンや箸で食べさせてくれる。咀嚼して飲み込んだ食物は太いチューブで箱へと流れていく。
動けない彼は、テレビや読書、音楽鑑賞という娯楽で気を紛らわせた。特に昔から読書が好きで、ドフトエフスキーやプーシキン、トルストイなどは連邦に留学中に読み漁っていたし、最近ではビクトル・ユゴーやニーチェ、日本の三島由紀夫を好んで読んでいた。
本を読んでいる時だけが、ジョンイルに至福の時を与えてくれた。
「閣下、今から機械の点検を行いますので…」
ある日、側近達のひとりはそう言うと、ガラスの遮蔽板に黒いカーテンを掛けた。
ジョンイルは何をやってるのだろうと思わず耳をすませた。どうやら箱を開けて中身を交換しているようだった。
点検は2時間足らずで終わった。
「申し訳ありませんでした。騒がしい思いをさせて…」
側近がカーテンを開いた。ジョンイルは黒い箱に目を凝らしたが、特にいつもと変化に気づかなかった。
交換された“部品”は、トラックに乗せられて官邸から運び出されて行った。
ジョンイルが“この状態”になってひと月あまりが過ぎた。
時折、側近達が持ち込んでくる公務もこなせるほど彼は回復していた。
当初、悲観していたが、その気持ちも徐々に薄らいでいた。今では、この生活も悪くないと時折思えていた。
その中で、彼の持ち前の“探究心”が頭をもたげた。
(しかし…我が共和国の医術も大したモノだ。私は首から下を無くしたのに、今だに異常無く生きている…)
ジョンイルは、自分を生かしている箱の中身を知りたくなった。