命の尊厳〜a short story〜-2
爆破事件からどれほど経ったのだろうか、男が目を覚ました。
「おお!閣下が目を覚まされたぞ!」
気が付くと、彼の周りを側近達が心配気な顔で取り囲んでいた。
「…ここは何処だ?私は大統領府に向かっていたはずだが…」
まだ覚醒していないのか、男は事の次第を図りかねていた。
側近のひとりが1歩前に出た。
「閣下は連邦の大統領府に向かう途中、事件に見舞われたのです」
「事件…?」
側近は頷く。
「我が共和国への不穏分子が列車に爆弾を仕掛けたのです」
(そうだ…食堂車で食事中に…)
男は、ようやく何が起きたのかを把握した。
「…ところで、私はどれほどの間眠っていたのだ?」
「閣下は1週間ほど眠っておられました」
「そうか…」
この時、男は異様さに気付いた。眠っていたのならば、ベッドに寝かされているハズなのに、自分の視線は立っている時と同じ状態なことに。
(…何故、私はこの体勢なのだ?)
男が視線を下げた。途端に凄まじい恐怖が彼を襲った。無かったのだ、首から下が。
「がああああぁぁーーっ!!」
事実を知った男は、錯乱したように目を剥き、大声をあげた。
「か、閣下!お気を確かに!」
側近達は男をなだめるように言い寄るが、今の彼には聞こえていない。
「おまえ達!なんてことを!!」
男は涙を流し、思いつく限りの言葉で側近達を罵倒した。人としての自由をすべて奪われたと思ったのだ。
側近達はしばらくの間、男の罵倒を浴びながら彼が落ち着きを取り戻すのを待った。
やがて、男の口から出る言葉が少なくなった頃、ひとりの側近が彼の前に立った。
「閣下…」
白髪頭に深いシワが刻まれた顔。彼は側近の中でも一目置かれる存在だった。
「なんじゃ!私をこのような身体にしておいて、まだ愚弄し足らぬか!ゲタン」
“ゲタン”と呼ばれた側近は、男に言った。
「閣下の仰ることは分かります。しかし、あえて申し上げます。この方法以外、閣下をお救いする手だては無かったのです」
「こんな姿で救われて、何の意味があるのだ!!」
男は“ゲタン”と呼ばれた側近を罵倒するが、彼は1歩踏み出して語った。
「あの爆破事件で、閣下の身体は回復不能なほどのダメージを受けておりました。医者がいうには、すぐにショック状態に陥って亡くなってしまうと。
ところが、幸いな事に首から上は全くの無傷だったのです。今、閣下に先立たれては国民は嘆き悲しみます。あなたは、“私達の太陽、ジョンイル将軍様”なのですから」
男は、側近の言葉に驚き、次に悲しみに暮れた。