今夜、七星で Tsubaki's Time <COUNT1>-2
「いらっしゃいませ。あ、樹里さんじゃあないですか」
「今日は会社の同僚も一緒なの。椿っていうのよ」
樹里は店員に、あたしを紹介する。
樹里って、本当に常連さんなんだぁ…
あたしはそんなことを思いながら、店員と、樹里の後についていく。
「こちらへどうぞ」
「ありがとう」
席に座っても、何だか落ち着かないあたしは店内をきょろきょろしてしまう。
薄暗い室内でも見て取れるが、金曜は心なしか、カップルが多い気がした。
「ご注文がお決まりになりましたら、お呼びください」
樹里が慣れた様子で会釈をして店員が去っていくと、あたしは口を開いた。
「ここ、よく来るの?」
「うん。よく来る。特に、金曜の閉店までいられる日…なんかはね」
金曜だからOLだって、羽目を外してぎりぎりまで飲むことだってあるだろう。
だけど樹里の言い方…笑い方は、なんだか含みがあって、…言うなればちょっと色気を感じるくらいだった。
「バーなんて、あんまり来ないからさ。ちょっと緊張してるよ」
舌を出して照れくさそうに笑うと、樹里もあたしにつられて笑う。
「また、来ようよ」
…ほんと、樹里は友達思い。
綺麗な顔をしてて、何だか周りからも慕われてて。
人見知りで、おとなしいあたしは、そんな樹里を避けてたけど話しかけられて樹里の印象が変わったっけ。
誰にでも優しく接して、そんな樹里とずっと仲良くできたらなぁって。
そう思う。
「飲み物、あたしとしてはこれがオススメなんだけど。これでいーい?」
「あっ、うん! いいよ!」
「わかった。あたし、一杯目はいつもこれなの」
樹里はそう言うと、手を挙げて店員を呼びつける。
「お決まりですか?」
「あ、ユースケじゃん。えっとね、キール・ロワイヤル2つ」
「かしこまりました」
樹里がユースケと呼ぶ人はあたしたちより年下みたいだった。
薄暗い室内だけど、綺麗な顔つきだということくらいはわかった。
「友達?」
「うん。まーね。というか金曜の夜に閉店までいる理由…ってやつ?」
「え?」
「すっごく『イイ』んだよね、あいつ。セフレなの」
樹里がウィンクをして、当たり前のようにあたしにそう言う。だけどその当たり前さに、あたしは何だか戸惑ってしまった。