星を数えて act.1-2
2 片手に少し大きい紙袋を持って、帰り道を歩いていた。
「はぁ…」
気が重い。今日はバイトなくてよかったとため息をもうひとつついた。
茜色の空を見上げた。もうすぐ星が見える。
「おぉー叶ちゃん」
後ろからの低い甘い声。一番聞きたくて、聞きたくない声…。
「崇」
「バイト帰り?にしては荷物おっきいか」
ハハって笑い私の荷物を持ってくれた。
「何買ったの?」
「スタンド」
「夜の演出ですな」
そんなんじゃない。そっぽを向くと、ごめんと耳元で囁かれた。
いろんな女の人に、そんなことしてきたの?
「荷物、返して」
気付けばアパートの階段前まできていた。彼の部屋には明かりがついている。
「いいよ、部屋まで持ってくよ」
また笑う。ちっちゃいときから変わらない。キリっとした目がたれちゃう。
ガチャン……
「ドアのとこに置いてくれていいから」
「はいはい」
ポン、と軽い感じで紙袋を置く音の後、ミュールを脱ぐ私の背中に指先を感じた。
「綺麗な髪」
しばらくさらさらと撫でると、俺友達来てるから、と言って部屋を出ようとした。
「あ、崇ッッ…!!」
「何?」
私をじっと見る。視線が痛い。
「約束、忘れたの…?」
「いつの?したっけ?」
「ほら、引っ越すときにさ、私を見つけるからって。だから」
「覚えてねーわ。嘘っぱち?次そんなこと言ったら、俺誘いは断らねぇ主義だから
抱くよ?」
そう言ってでていってしまった。
嘘っぱち?
違う。
『崇ちゃん行っちゃやだぁー』
私はずっと隣に住んでた崇の引っ越すときに、やだやだとだだをこねた。
『叶ちゃん、僕だってやだよ…』
『どうして七夕なのに会えなくなるの?織姫さまと彦星さまは会えるのに』
叶の誕生日なのにー!私はわんわんと幼い崇の前で泣いた。
『あっ!ねぇ叶ちゃん』
『ぐずっっ…うー?』
崇は私の手を握った。
『叶ちゃんは織姫さまだよ。だって七夕にうまれたんだもん!』
『うん…』
私の手を握ったまま、崇は笑った。
『僕、彦星になるよ!織姫さま見つけるから!迎えにいくから、だから』
『……?』
『織姫さまみたいに髪長くして、いつでも叶ちゃんをみつけられるようにさ』
『ふんぅ…』
『約束だよ!』
崇は笑って私の手を離して、崇を呼ぶお母さんの元へ駆けていった。
『約束だよ━━━!!!』
この約束、絶対守ろうって、決めたんだ。
なのに。
貴方は忘れたの……?
呆然と閉まったドアを見つめていた。もう、永遠に開かないんじゃないかと思うほどに、閉まった音は大きく冷たかった。