「demande」<高崎要>-4
「あの…高崎さん」
「はい。お嬢様」
「今日一日、私のわがままを聞いてもらえますか?」
「ええ。もちろんでございます。なんなりとお申し付けください」
なんて言おう…恥ずかしくてストレートに言えないけど、言わなきゃ伝わらないかもしれない…。いや、執事っていうくらいだもの、察してくれるかも…。
「あ、あの。無理なら無理って言ってくださいね。本当に無理なお願いかもしれないので・・・」
「承知しました。でも、できる限りご要望にお応えしたく思います」
高崎はやわらかく微笑んだ。とても安心できる笑みだった。その笑みが、ちとせの背中を押した。
「きょ、今日は…わ、…私の初体験の相手になってもらえないでしょうか!」
…………言ってしまった。
優秀な執事は、少し間をとったものの、こう言った。
「私としては光栄に思いますが…よろしいのですか?初めての相手が私で…」
「いいんです!私っ…この年で経験してないことのほうが恥ずかしくてっ。た、高崎さんのようなステキな方が初めてなんて、私のほうこそ夢みたいです!」
ちとせは一気にしゃべると顔が紅潮して、少し涙ぐんでいた。
高崎はちとせの前にひざまずき、そっと手をとって話しかけた。
「経験の有無は、年齢に左右されることではありません。まして恥ずかしいなどと思うことはありませんよ。…何かあったのですか?差出がましいようですが、お嬢様のような純粋で可憐な方が、ご自分で思いつかれるようなことではないように感じますが…」
「…純粋で可憐なのが気持ち悪いんですって」
「…えっ?」
「大学の男の子たちが話していたのを…たまたま聞いてしまったの…。今どきこの年で処女だなんて気持ち悪い。三橋なんてまさに処女だろう って…」
はたはたと涙が落ちる。
執事は胸ポケットからチーフを取ると、そっと頬を拭った。
「そんなことがあったのですね…。さぞかし御辛かったでしょう。」
執事は手を少しだけ強く握り締め、そっとささやいた。
「そんな悲しいお気持ちのまま、私相手に経験してしまってよろしいのですか?将来の大切なかたのために…」
「いいの。本当に…いいの。高崎さんがいいの」
「…光栄です」
そう言うと、握った手にそっとキスをした。