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恋愛小説
【片思い 恋愛小説】

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恋愛小説-5

「でも、…そんな生き方をして幸せになれるのか?」
「シアワセ?」
 わざとらしく復唱し、声を上げて笑った。酷く、意地の悪い笑みだった。
「シアワセ、って何だよ?」
逆に訊ねられ、僕は黙ってしまう。地位や名誉、莫大な富、暖かな家庭、幸せ、しあわせ、シアワセ…。
「教えてやろうか?シアワセなんて簡単だよ。考えてるほど高尚なものじゃない。客はあたしの胸を触るだけでシアワセらしいし、モノをくわえられている時もシアワセそうな顔してる」
「…あかり、ちょっと」
「でも、射精したあとは決まってみんな虚しそうな顔をするんだ。なんでだろうな?」
「やめろって」
思わず声を荒げてしまう。
あかりは黙って、ゆっくりとピニャコラーダを口に運んだ。
 あかりのしている仕事に関して、僕は何も言えなかった。間違っているとも、やめてほしいとも言えない。彼女の選んだ道に口出しするなんて考えられなかった。あかりの歩くその道が、暖かくないはずがない。必死にそう思い込んでいた。
 幸せは現象ではなく感覚だ、と誰かが言っていた。いくら幸福な状況に置かれたところで、当人がそれを幸せと感じられなければ意味がない、と。
確かにそうなのかもしれない。蛇口をひねって水が出ることを幸せかどうかなんて、僕達はいちいち考えない。
「それで?」
乾いた声で続きを促す。
「急になんでそんなこと思ったんだよ?」
「…中学の時から仲良い子がいてさ。俺より高い偏差値の高校に通って有名な大学に進学した。将来はもっと高いところに行っちゃうかもしれない」
あかりは頷き、何か言おうと視線を上げるが結局その口は開かなかった。おそらく、ピニャコラーダと一緒に飲み込んでしまったのだろう。
「釣り合わないのが怖いんだ。この先、もう一緒にいられないんじゃないかと思うと怖くて怖くて仕方がない」
友達としてでも、一緒にいられるのか不安になるんだ。学生時代には楽しさや嬉しさを共有できたのに、今はもう、遠くにいて。
「同じ目線に立ちたいんだよ」
やりたいことだけをやって生きていけたらどれだけいいか。そんな生き方、あの子との距離が離れていくいっぽうじゃないか。
小さな叫びは、あんぐりと口を開けた闇に呑まれていった。
「馬鹿みたい」
 少しの間が空いた後、道端に唾を吐き棄てるようにあかりは呟いた。
「馬鹿って…人が真剣に悩んで―――」
「好きなの?その子のこと」
「…何言ってんだよ」
 灰皿に置かれた煙草は半分ほど燃え尽きてしまっていた。僕はそれをぐしゃぐしゃにして消した。
否定はできなかった。あの子と一緒にいたい、なんて思いは恋だと考えるのが一番妥当だ。
「肩書きや付属物なんてどうでもいいじゃん。気持ちがあれば」
「そう言っても、僕がちゃんとした職に就いてたりしなきゃ一緒にいてくれないだろ?」
「あのさぁ…」
 大きくため息をついて、あかりは身を乗り出した。
「怒るよ、本当。その子はそんなに高いところにいる?追いつかない場所にいる?」
手に暖かいものが触れる。あかりの小さな手が、僕の手をぎゅっと握っていた。


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