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「例え君が何者でも」
【コメディ 恋愛小説】

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「例え君が何者でも」-3

「もう!何なんですか!」

「だから、ゆ」

「イヤーッ!」

「あーごめんごめん。姫代が面白過ぎて…」

私の名前、また!

「何で私の名前、知ってるんですか?」

「そりゃあ、あれ見れば」

幽霊は私の隣を指差します。すぐに納得出来ました。私が寄り掛かっている背の低いチェストの上には沢山の写真が飾られていました。友達とのもの、家族とのもの。中には、メモのように一言書いてあるものがあり、その最後には必ず私の名前が添えられています。

「そうですか…あの、幽霊、お願いがあります」

「オレ、有介ね」

「あの、有介、お願いがあります」

「幽霊と同じノリで言ったね。まぁいいや。何?」

「出てってください、怖いから」

「怖い?オレには怖がってるようには見えねぇんだよな、全然っ」

んん、なかなか手強いですねぇ。幽霊、いえ、有介は胡座どころかゴロンと横になってしまいました。完全にくつろぎモードです。

「もう!何で出てってくんないんですか!?」

私が興奮して立ち上がった瞬間、有介の姿が消えました。
と思う間もなく、背後に人の気配、そして私の首にふんわりと有介の腕がまわされていました。驚いて「キャーッ!」と叫ぶ私の肩に顔を埋める有介。頬に有介の髪の毛がフワフワと当たってくすぐったいです。

「寂しいだもん…」

ボソッと呟いた有介の声はまるで、甘える子供のようでした。キュウッと胸が締め付けられます。

「なんつって!」

急に私は有介から解放されました。私は呆気に取られてしまいました。有介を見ると「シシシッ」と八重歯を見せて笑っています。

「何なんですか、もう」

私はその場にへなへなと座り込んでしまいました。
有介はフンフーン♪と鼻歌を歌いながら私の部屋を徘徊しています。
今さらですが、有介は幽霊とは思えないぐらい人間くさいです。匂いについても、です!
この数時間で何回か接近してますけど、その度にふわんと人間くささがありました。
撫でられた時も抱き締められた時も温かかったし、仕草も全部、私と同じ生きてるもののようです。足だってちゃんとありますし、白装束着てないし、「ウラメシヤ」しないし…。
それに、さっきから写真を見つめるその目が切なげで、憂いを帯びていてこの世に存在しないものだなんて思えませんでした。
そんな顔になるぐらいなら写真なんて見なければいいじゃないですか。それでも人の温もりやあたたかさを求めるのですか?
自分が何者かも分からないというのは、私の想像以上に悲しいことなのかもしれません。その上、本当ならば存在しないものだなんて。
寂しいと言ったのは有介の本音に間違いありません。誤魔化したけれど本当はもっと『あたたかさ』に触れていたかったのではないですか?
私は、あなたのそんな寂しそうな顔見たくありません!


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