スケッチ-5
「良いよ。何でも聞いてあげるよ」
そういう僕の言葉にカナは顔を上げる。
潤んだ瞳は赤い夕陽を反射してまるでガラス玉のようであった。改めて僕は彼女を綺麗な子だと思った。
そして、直後信じられない言葉を聞いた。
「私を私をっ!抱いてくださいっ!」
キュウッと両手を胸の前で握り締めて全裸の女の子がそう言った。
抱いてくれ、と。丸裸の女の子が、だ。
瞬間、理性がぐらつきそうになるのを懸命に堪える。
「待て、それはつまりどういう……」
そこまで言って、自分自身の言動のマヌケさに気が付いた。
どういうも何も言葉通りだろう。抱いて欲しいのだ、カナは。
しかし、一体どうすれば。
「その、僕らは健全な中学生であって」
たしかに友人達の中には、すでにそういう経験をしたものもいると聞くが……
僕はしどろもどろにも続けようとして、カナの異変に気が付いた。
「何でも…グス……聞いて、…くれるって……」
泣いていた。溢れた涙は頬を伝い、首筋を伝ってその裸の身体を滑っていく。
何だかそれはものすごく艶めかしい光景だった。
女の涙には得も言われぬ魅力がある。僕はその時確信した。
「でも……く、」
耐えられなかった。しょうがないから、抱き締めた。
傷ついた女の子を放っておけるほど僕は冷たい人間ではない。
それに、カナの性格を良く知っているだけにその痛みが手に取るようにわかってしまったのだ。
恥ずかしがり屋で引っ込み思案な彼女のことだ。この事もすごい決心だったに違いない。
制服越しにカナの華奢な身体を感じた。
こんなか細い身体で本当にご飯をしっかり食べているのだろうか。運動ができるのだろうか。
そんな下らないことを思いながら、背中をさすってやった。何も身につけていない裸の背中は滑らかだった。触れただけでそのままどこまでも滑っていきそうなほどに。
「嘘つきです……ひっく…先輩は…嘘つ……グスきです」
シャンプーの良い匂いが鼻孔をくすぐった。
こんな子が抱けるならばたしかに、僕は幸せなのかもしれない。
「僕が初めてでも後悔しない?」
「え?」
距離が0に近い状態で見上げられて、思わず僕は目を逸らしてしまう。
上目遣いは反則だ。可愛過ぎる。
そうして、ようやく僕の言う意味が理解できたのか。カナは僕を柔らかく抱き締め返して言った。
「よろしく、お願いします」
噛み締めるようにカナはそう言った。
○
初めて見た先輩のソレはとても逞しいものだった。
天を見上げ屹立し、鈴割りから透明な液体をわずかに滴らせる様子は獣が獲物を前にして涎を垂らす姿そのものだ。
「ちょっと気が早かったかな」
先輩は少し照れたように言って、改めて私をまじまじと見た。
その瞳はさっきまでのものと明らかに違う。人間の目ではなく獣の目。獲物を狩る捕食者の目。
でも、そんな先輩の目も素敵だった。私はいつも以上に先輩の中にオスを感じた。
「怖くない?」
私はふるふると首を振る。
でも、それはちょっぴり嘘だ。あんなモノが自分に入ると思って怖くないわけがない。
「痛かったら、いつでも言ってね?」
先輩の優しい声。こんな事を言われると意地でも痛いなんて言えなくなってしまう。