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蒼い殺意
【純文学 その他小説】

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蒼い殺意-7

(四)来訪者

瞑想から我に返った彼は、運命の時刻の訪れが近づいたことに気付いた。昨夜、学友との口論の後、あの女学生が、例の如く彼をからかったのだ。
「口先ばっかりよ。机上の空論よ。だめだめ、〇〇君は。」
勿論彼も言い返した。
「馬鹿にするな!俺も男だ。『いざ鎌倉!』と言う時には、やるさ。」

しかし、一笑に付してしまう女学生に、彼は
「男の部屋に一人で来れないような奴に、とやかく言われる覚えは無い!」と、反発した。私から見るに、男の部屋に云々というのはことばのあやに過ぎないのだが。しかしそれを、言葉のあやと簡単に片づけようとしない女学生は、
「いいわ。じゃ、お昼過ぎに行くわよ。いいこと、逃げ出さないようにね。」と、さも決闘状を手渡すように言い放った。まるで予期せぬ女学生の言葉に、彼は答えることもできずに、唖然と相手を見つめるだけだった。

 軽い頭痛を覚えた彼は、横になるやすぐに眠りに入ってしまった。

「起きなさいよ!」
聞き覚えのある声に、彼は飛び起きた。彼の視界に入った女学生は、
”約束通り来たわよ!”と、突き刺すような目をしていた。彼の目が覚めたことを確認した女学生は、壁に所狭しと貼り付けてある写真を見回しながら、咎めるように言い放った。

「何ょ、この写真。あなたのばかりじゃない。それも変な顔ばっかり。自意識過剰じゃない?泣き顔・笑い顔・怒り顔、正面・横・上向き・下向き・斜め・・・呆れた!どういう人なの?」

質問とも非難とも取れるその言葉に答えるでもなく、彼は言った。
「民主主義の究極は何だろう?無邪気な子供の悪戯だろうか?憎めない悪戯だろうか?最近の映画だけど、小学四年生の子供が遊び仲間の言葉を真にうけて、凧に母親の陰毛を貼り付けようとしたんだ。

『高く上がるぞ!』という言葉を信じて。それを聞いた教師が、叱るどころか頭を撫でて笑った。そして、教師の頭を悩ませていた恋愛問題やらのことが、絵空事に思えてしまった。大人から見るととんでもない事が、子供にはまるでわからない。

常識という枠を飛び抜けた、純真さから生まれた行為。恥ずべき行為が、子供の悪戯心からだと、何のエロチシズムも感じないから面白い。」

突然の彼の言葉に、
「いいわよ。勝手にそんな訳の分からないことを言ってなさい。私は、掃除してるから。」と、当初の意気込みも忘れ、呆れ返った。彼にしても、何故こんな事を口走ったのか・・・わからずにいた。私に言わせれば、単なる照れ隠しのように思えるのだが。

「今は、昔じゃないんだ。豊かになった。食料のことで争うこともない。働けばお金が入るし、食べてもいける。職業を固定化することもおかしい。その日の自分の状態で、最も適していると思える仕事をすればいい。

人間は自由なんだ。お金だとか、そんな物質的なものに縛られる必要はないんだ。秩序だとか、道徳だとか、そんなものは自然に任せればいい。そうそう、『他人の顔』という小説を読んだよ。」

黙々と片づけを続ける女学生の甲斐甲斐しさが、すがすがしい。学校での彼に対する態度が嘘のように思える。女学生の反応は無かったが彼はなおも話し続けた。沈黙に耐えられないかの如くに。


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