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飃(つむじ)の啼く……
【ファンタジー 官能小説】

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飃の啼く…最終章(後編)-8

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青嵐は、地響きを感じていた。くわえた煙草が、闇の中に赤を灯す。

アスファルトの上に胡坐をかき、白く点々と続く中央線の向こう側に、現れる敵を待ちわびて、体中の血が熱く滾(たぎ)っていた。

鼓動の一つ一つが、続く旋律を待ちわびるビートのように鳴り響いている。



「来たな」

青嵐は立ち上がった。

真っ直ぐ闇の中からこちらに向って伸びる道の果てに、現れた黒い影。彼は頬に手をやった。

――笑ってやがる。

自分の顔に、笑みが浮かんでいた。そして、目の前に現れた青白い顔にも、不敵で狂った笑顔が浮かんでいる。

「これはこれはぁ、国津神最大の軍団の汚点(ピリオド)が、こんなところでのんきに煙草をくわえてやがらあ…」

青嵐はふざけて優雅なお辞儀を返した。

「そういうお前さんは、背中に大群をしょってお出かけか…たかが一匹の狗族と、小娘を殺しに行くのに、大した備えじゃねえか、え?」

二人の間に沈黙が浸透する。切っ先を突き合わせたような鋭い均衡の中で、どちらともなく笑い出した。

「お手合わせ願おうか…青嵐」

「望むところだ、顱……お前にここは通させねえ」

「やってみろよ!!」

顱は一声叫び、青嵐に向って手を伸ばした。その手は手としての形を失い、ただの真っ黒な触手となって襲い掛かった。触手はものすごい勢いで青嵐に向って伸びたが、青嵐は空中に飛び上がりその攻撃を避けた。

もはや形を形容することもできない黒い塊は、青嵐の立っていた地面にぶつかると、空中の青嵐を追いかけ、上に向かってその虚ろな口を開いた。

「蠅みてえに…逃げ回ってんじゃねえ!」

青嵐を飲み込もうと、開いた口に追いつかれようという時、青嵐の体を黒いものが包んだ。

――青嵐の呪い文字である。

それは新しい体組織のように彼の体を包み、長い鉤爪に、体を覆う棘に、そして鎧へと姿を変えた。

青嵐は、追ってくる触手に向かって両の手を合わせた。するとそこから、戦槍のように大きな棘が伸び、触手を貫き、離散させた。

地面に降り立った青嵐を、顱は嬉しそうに見つめ、狂気を孕んだ笑い声を上げた。

「嬉しいぜ…青嵐…!!貴様を殺すのは…今までで一番楽しい仕事になりそうだ!!」

顱は青嵐に飛び掛った。体中から触手を出し、そのすべてを束ねて青嵐の体を貫きにかかる。

「そいつは残念だったな!」

青嵐は、触手を長い鉤爪で断ち切った。

「俺は“今まで”の奴とは違う…後悔することになるぜ!」

「ははっ!“今まで”の奴は皆そう言ってくたばってんだよ!」



叩きつける爪の音。風を切る触手の音。そして低い潮騒。そのすべてを、嫌に冷静に聞いていながら、青嵐の脳裏には、声が閃いては、消えていた。


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