飃の啼く…最終章(後編)-31
―ありがとう。
聞き覚えのある声が言った。
―ありがとう、お姉ちゃん。
「あ…」
その声は、ひときわ眩しく輝く光から、はっきりと聞こえてきた。頬を流れる涙に、それは優しく触れて、そして再び舞い上がると、消えてしまった。
「己からも、礼を言う」
飃が、茜の傍らに立って言った。
「望ましい最後だった…己にとっても、あの男にとってもな」
茜は頷いて、涙を拭いた。
「歩けるか?」
「ええ。早くさくらのところに行かなくちゃ」
二人は部屋を出て、地の底から一気に屋上を目指した。
その時―
飃がひときわ強い、武器同士の共振を感じた、次の瞬間―飃の手の中の雨垂が、悲鳴をあげて砕けた。
「な…に……!?」
砕けてしまった。
+++++++++++++
さくらは迷わずに、害に手を伸ばした。
反対側に落ちてゆく三つの影を、害は信じられない思いで見つめた。さくらはすんでのところで害の手をつかんだ。
「なんで…」
害はか細い声で言った。
「なんで友達を見捨てた…?なんで僕を…何故見ず知らずの人間なんかの命を優先するんだ!」
「勘違い…しないで、“ゆう”」
さくらは食い縛った歯の間から言った。
「私は仲間を見殺しにしたりしない…!それに、心のそこから信じてるの」
そして、一気に力をこめると、小さな澱みを屋上に引き上げた。
茜の胸元に、ペンダントが無かった。
そして、示し合わせたように、風がさくらを害の方へ押しやったのだ。絶えず吹く海風とは、真逆のほうから吹いた風だった。