飃の啼く…最終章(後編)-2
「さくら」
「なぁに、パパ」
「いつかおまえは、あの黒いものを沢山消すために、頑張らなくちゃいけなくなる」
少女は頷いた。およそ子供のものとは思えないような強い決意の光がひらめいて、父は思わず、大人に話して聞かせるように言葉を改めてしまいたくなる。
―いずれ、お前はあの黒い者達を倒すために修羅の道を歩むことになるのだ、と。
「でも、その時お前は一人ではないからね。心無い友達のように、お前を嘘つきといったり、ぶったりしない仲間が、きっとおまえを助けてくれるよ」
本当?と、少女の声が華やいだ。
「その人たちには、いつ会えるの?」
父は微笑んで、少女の柔らかな額に口づけをした。
「いつか、きっと」
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八条さくらは、澄んだ遠吠えを耳にした。
輪唱するように後に続く、沢山の、沢山の声。
涙を流す彼女の傍らで、飃が手を口に当てた。また一つ、美しい遠吠えが仲間に届く。
仲間に。
―ああ、共に戦う仲間がいる。
私には、共に生きてゆく人がいるんだ。
涙を拭く彼女を見て、害が言った。
「哀しい…のか?」
「ううん。嬉しいの」
さくらは頭を振った。
「嬉しいの、仲間が生きていてくれて」
彼女の笑顔は眩しい。害は俯いて、我知らず呟いていた。
「ああ…いいな…」
そんな彼の手を、さくらは何も言わずに握った。
「さぁ、行こう!」
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「斬っても斬っても…!」
悪態をつくカジマヤは、悲鳴をあげそうになる腕を無視した。
―今度は!
敵を目前に逃げ出した自分の姿が、緩む掌をまた固く握らせる。
――今度は、逃げねえぞ!
地面には澱み。空にも、翼手で旋回している澱み。あたりは黒い影と、戦士たちと、澱みが散った塵で、ごった返していた。まるで終わりなど無いように思える混乱。その中にあって、戦士たちの表情は生き生きとしていた。