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飃(つむじ)の啼く……
【ファンタジー 官能小説】

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飃の啼く…最終章(後編)-1

ある、冬の日だった。

小さな少女は、体中を傷と青あざだらけにして家に帰ってきた。ランドセルには大きな引掻き傷がついていて、黄色の帽子も泥によごれていた。

そして、彼女は、ぽろぽろと大粒の涙を流しながら、歯を食いしばり、彼女の家の大きな門を静かにくぐった。

道場から聞こえる竹刀の音と、足音、そして掛け声。それとはまるで別世界のように静まり返った家の中を、彼女は俯きながらゆっくり歩いた。ランドセルを背負ったまま、仏間の襖をそっと開ける。

母の大きな遺影が、優しい微笑を称えて、畳に行儀よく正座する少女を見つめているようだった。少女は手際よく、マッチをすって火をつけ、慣れた手つきでろうそくに火を灯した。そして、線香をその火にかざし、線香たてに丁寧にさして立てた。それから彼女は、小さな手で仏壇の鐘を鳴らすと、その余韻が収まらぬ間に、火のついたように泣き出した。あまりに激しく泣くので、その声を聞いて、部屋から出てきた父の足音にも気がつかなかったほどだ。

背の高い父は、仏間の欄間に頭をぶつけないようにひょいとかがんで、座布団に突っ伏してなく娘の隣に静かに腰掛け、優しく、そして幾分ぎこちなく、少女の髪を撫でた。乾いた砂で作った城を崩すのを怖れるように。

「どうしたね」

彼は聞いた。

少女ははっと顔を上げ、今度は父の膝の上に身を投げ出してわんわん泣いた。

「さくら、嘘つきじゃない!」

父は面食らって、小さな娘に優しく問いかけた。

「もちろん、さくらは嘘つきなどではないよ。誰がそんな事を言ったんだね?」

父は娘の背負ったランドセルを下ろさせると、娘をひょいと持ち上げて膝の上に乗せた。

「長島君」

娘は鼻をすすりながらも、憤然として言った。

「あと、村井さんとか、小林くんとか…いっぱい。クラスのみんなのほとんどが、さくらを嘘つきだって言って、ぶったの」

「どうして?」

少女は眉根を寄せて、しばらく黙り込んだ後、狗族でなければ聞き取れないような声で言った。

「さくらが、お外に黒いのが見えるって言ったら、皆見えないって。皆を脅かそうとしてそういうこと言うんだって」

父は、彼女の小さな頭に大きな手を置いたまま、穏やかなため息を漏らした。

「パパには見える?あの黒いの、見えたことあるんでしょ?あれは悪いものだから、さくらが大きくなったら、あれを消しちゃわなきゃいけないんだよね?」

「そうだよ」

父は静かに言った。口数の少ない父と、放っておけば何から何までを話して聞かせようとする娘。その会話は、いつの間にか少女の顔から涙が消え、笑顔がちらりと現れるようになるまで、ゆっくりと続いた。

斜陽が仏間に差し込み、柱の影が時計の針のように床を動いていった。


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