飃の啼く…最終章(後編)-18
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地上の戦士たちは、轟音のしたほうを探す必要は無かった。なぜなら、轟音は彼らが正に目指している敵の本陣から聞こえたのだから。
雲が再び離散した。
黷の頭上から、恐れをなして逃げ出すように曇雲が消え去った。そして、そこには紛れもなく、龍たちの姿があったのだ。一体だけではない。美しい鱗を持つ色とりどりの龍が、風に鬣を靡(なび)かせ、そこに浮かんでいた。
星を散りばめた、蒼い夜空を背に、その勇姿はまるではためく戦旗の様。
黷が次の砲撃を準備するのも、結界を塞ぐのも、今からでは完全に手遅れだった。
ある美しい龍の、矢のように真っ直ぐな咆哮を皮切りに、他の龍も次々に雄たけびを上げ、雷を呼んだ。
彼らは雲の表面を走ってやってくる稲妻を束ね、澱みの首魁、黷が立つ場所めがけて放った。
空間も裂けようかというほどのものすごい音と閃光が辺りに響き渡る。何体もの澱みがそれだけで塵へと変わってしまうほどの衝撃が走り、そして――
「見ろ…!」
「ほら、結界が…」
龍の雷をもろに浴びたものが、無事でいられるわけは無かった。ましてや、その雷を束ねたものなら、その威力たるや途方もないものであることは疑うべくも無い。
堅牢に敵の本陣を護っていた結界が、今、力を失い、ばらばらと解けて地に落ちていった。
「進め!今こそ澱みを根絶やしにする好機だ!進め!」
青嵐が大音声で戦士たちに呼びかける。返ってくる声はどれも嗄れていたが、依然力強かった。
彼らは、龍がつくった晴れ間から差し込む星明りが、荒れ果てた戦場を美しく輝かせるのを見た。月明かりより尚明るく、燦然と輝く星辰は北斗七星。戦を司る星が、戦士たちを嘉するように見下ろしていた。
「神立(シェンリ)!」
鈴の音のような声に、神立は振り向いた。目の前で彼と戦っていた敵は、その声の主がたった今放った小さな落雷で粉々に飛び散ってしまった。
「春雲!」
少女は空中で変身を解きながら、そのまま神立の胸に飛び込んだ。優雅な龍の体はふんわりと消えて、春雲は小さな少女の姿で神立の腕の中にいる。再会できた喜びを、言葉にする必要はなかった。二人は極短い間だけ、ひしと抱き合い、そして離れた。
「神立、一緒に飛ぶぞ!」
彼女は喜びに輝いた顔でそう言うと、再び龍の姿に変身した。神立がその背に乗るが早いか、春雲は花火のように空に向って真っ直ぐ飛翔した。
氷漬けの澱みが、また一つ派手な音を立てて崩れていく。とにかく数の多い澱みを、片っ端から凍らせて動きを止めるのが氷雨の役割。そして、その澱みを叩き割ってゆくのがさくらと飃の前をゆく、カジマヤを含む狗族たちの役割だった。澱みの相手をしなくていい分、二人の負担はかなり軽い。