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飃(つむじ)の啼く……
【ファンタジー 官能小説】

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飃の啼く…最終章(後編)-19

「おらもう一丁!」

赤いマフラーが夜の闇に映えてひらめく。

「あともう少しでビルだ…!」

彼らの頭上を照らし続けた釣瓶火が声を張り上げる。火が苦手な氷雨は、彼からかなりの距離を置いていたが、その声はしっかり届いた。

「もう少しって言ったってまだ500メートルはあるぜ!しっかり照らせ!」

しかも、その最後の500メートルに、かなりの数の澱みがいるのだ。結界が破壊できた今、本陣への侵入を防ぐのはその澱みだけだ。しかし、それは新たな壁のようにさくらと敵の間に立ちはだかっていた。

氷雨の凍結が間に合わない澱みを、カジマヤたちと一緒に切りつけながら、さくらと飃はその壁に挑もうと視線を交わした。

その時、

「飃さん、さくらさん!」

彼らの後方から声がしたと思うと、二人と一体の体は宙に浮いた。

「神立…!」

春の雲のような白く清々しい鱗を持つ龍が、彼らの身体をそっとその手に乗せて飛んでいた。

「私は龍宮の春雲と申すもの。あなた方に力添えが出来ること、光栄に思う!」

「ありがとう!」

勢いよく上昇する彼らの様子を見て、カジマヤが歓声を上げた。そして、狗族たちも、真っ白な龍が敵の本陣を、まっすぐ屋上に向かって登ってゆく様子に声をあげた。

「行け!行ってくれ!」

祈りと希望を、彼らに託して。



翼手を持つ澱みを蹴散らし、呆然と頭上を見上げる澱みを飛び越え、龍はビルの壁を垂直に飛んで、屋上を目指した。

しかし、春雲の顔をめがけて落ちてくる澱みたちの捨て身の攻撃を受け、彼女は頂上まで上りきることが出来なかった。

「春雲、ビルから離れて!一度退かないと駄目だ!」

神立の声に、春雲は悔しそうに顔をしかめた。

「いや、ここで良い!」

飃が吼えて、雨垂を目の前のビルのガラス窓に突き刺した。鏡のようなガラスに、蜘蛛の巣のよう亀裂がはしる。飃はさくらと、さくらに抱かれた害を抱えると、一言もなしにその亀裂に向って飛び込んだ。床を回転して体を起こすと、まだ空中に留まっていた春雲と神立に向って再び吼えた。

「行け!」

二人は頷いて、今度はビルの下のほうに溜まっている澱みを蹴散らしに向った。


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