飃の啼く…最終章(中篇)-28
―機は熟した。
彼の顔には、左半分を覆う大きな“青嵐”の文字があった。彼の皮膚を自由に動き回る呪い文字を、今は名乗りを上げるようにそこに配していた。
彼は、大きく息を吸い込んだ。
天を貫くような遠吠えが、全ての空気を満たすように広がっていった。美しい旋律は風を捲いて風に乗り、全ての戦士たちの下に届いた。
遠吠えが帰ってくる。同じ旋律を、同じ歌を歌って、様々な声色の遠吠えが、終わりの無いこだまの様に響いた。
―小夜中に 綾の風こそ吹き来たれ
神風ならば しなやかに吹け
神風ならば―
かくして、8月20日、午後19時。
戦士たちの吶喊(とっかん)が響き渡った。
―しなやかに吹け!!