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飃(つむじ)の啼く……
【ファンタジー 官能小説】

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飃の啼く…最終章(中篇)-25

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「八条…さん」

さくらは振り返って笑った。

「いいよ、さくらって呼んでくれれば」

一時間ずつの交代で、先に眠ったさくらは、元気を取り戻していた。傍らに眠る飃を起こさないように、小声で害の言葉に答える。

「聞いてもいいですか?」

彼女は再び笑った。何もかもを受け入れてくれそうな、深みのある微笑だった。

「どうして…」

どうして澱みを助けたのか、とは聞けない。そこまで口にしておいて、害は問うべき言葉を失ってしまった。さくらは、彼の座る隣にゆっくりと腰を下ろした。

「どうして、澱みを助けたのかって?」

害ははじかれたように顔を上げた。彼女の顔には、依然やさしげな微笑が浮かんでいる。

「知って…?」

「うーん…最初は全然気付かなかったんだけどねぇ…」

彼女は、たははと笑い、恥ずかしそうに頭をかいた。

「途中で、あれ?とは思ったんだけど。澱みの気配がほとんどないしね。でも今私のこと“八条”って呼んだでしょ?それで分かっちゃった」

害は俯いた。

「なら、何故僕に刃を向けない?」

「向けてほしいの?」

さくらの真っ直ぐな言葉に、害は顔を上げ、首を横にふった。

「それじゃあ、逆にどうしてあなたは私達を殺そうとしないの?」

「…わからない」

そんな答えだったのに、さくらは満足そうに微笑んだ。

「はは。じゃあ、私もわかんない」

そして、少し彼と距離を置いて、じっとその姿を見つめた。

「私、澱みの全部が全部、殺戮を望んでるわけじゃないって、知ってるからさ」

その言葉に、害は半ばムキになって言った。

「そんな事あるもんか!父上は、澱みは破壊と混沌と、あらゆる悪しき感情の化身だって…」

傍に眠る飃を意識したのか、その声は尻すぼみになった。

「父上は、僕に見せてやるといった…世界を壊して、また新しい世界を作るんだって。澱みが新しい神となって、人間達を恐怖に落としいれ、支配するんだ」

さくらは、その言葉をじっと聞いていた。怒るでもなく、悲しむでもなく。

「君は、そんな世界にしたいの?」

「父上は…」

言いかけた害を、さくらの手が止めた。

「“父上”じゃなくて、君はどう?」

「え…?」

害の思考は一瞬停止した。生まれて初めて受けた質問だ。


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