飃の啼く…最終章(中篇)-17
聞くと、そこはカジマヤのようにただ青嵐の言葉に従って敵陣の近くに陣を張ることにした者達の集まりだった。一番初めに到着していたのは蝦夷のエエンレラ率いる坎軍だが、彼らは行き当たりばったり出ここに来たわけではないらしい。
ここに入れる人数にも限りがあるため、入りきらなかった狗族を匿う別の場所もある。そして、まだ多くの生き残りが、“何かが起る”のを待っているそうだ。
―そんなんで大丈夫なのかよ。
カジマヤは素直にそう思ったが、何せあの青嵐の考えることだ。癖の一つや二つ、ないほうがおかしいというものだ。
なにより、まだ終っていないということが、カジマヤには嬉しかった。終ってない。戦えるんだ。まだ戦える。
そして彼らは、“何かが起る”のを待った。ただひたすらに。
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「こんなに生き残りが居たのですね」
御祭の軍と行動を共にしていた南風は、仲間を見つけて喜びに顔を輝かせた。頷いたウラニシは、神妙な顔でこう言った。
「みんなやつの言葉を信じてここに待機している」
「何かが起るまで、ねえ…」
吹雪が言った。胡散臭そうないい方ではあったが、それでも顔に浮かぶ幽かな笑みは消え去っていなかった。
「こちらの場所を特定されるような通信方法は禁止だから、他に何人仲間が生き残っているのかも分からん…ただ、何かが起った時に、何かが出来るくらいの数が生き残っていて欲しいと願うほかはないな」
彼らが居たのは、打ち捨てられたテレビ局の展望室だった。観光スポットとしても人気のあったそこは、様々なポスターや、たて看板で賑わっていたが、今それらを気にかけるものは居なかった。ただ、長い戦いに疲れた戦士たちの中には、グラビアアイドルの胸の谷間を目の保養にするものも、居るには居たが。
「しかし、いくらこの状況で互いの連携が取れないにしても、これは作戦自体が無茶苦茶すぎる」
吹雪がため息をついた。彼女の夫の姿が見えない。戦いの最中ではぐれたか、あるいは…
「まるで、わざと負けようとでもしているみたいに無謀じゃないのさ」
そんな吹雪に、ウラニシがなだめるように穏やかに言った。
「それが狙いなんだろう。澱みの驕りを最大限に高めて、そこに出来た隙を突く…それには、先ず俺たちが弱みを見せなきゃならん」
「分かってるわよ…そんなこと、分かってるけど…」
吹雪は、苛立たしげに、頬杖をついた。彼女の考えていることはわかる。震軍の全滅の一報が、彼らの心に暗い影を落としているのだ。飃とさくらの震軍をわざわざ最初に戦場に向わせて、敵の注目を一気に集めさせるような真似をした彼らの軍の君に対する信頼が、少なからず揺らいだのは確かなのである。
「青嵐は…今何をしているのでしょう」
ぽつりと口にした南風に、吹雪がにやりと笑って言った。