『ポッキーとプリッツ』-2
「何の日なのよ。」
気を悪くして尋ねると
「ポッキー&プリッツの日です。1111ってのが、棒っぽいっからだって。」
つまらないトリビアを披露してくる。しかもバレンタインデーもびっくりなこじつけだ。
「グリ○のまわしもんかよ。」
突っ込むと
「ポッキーとプリッツをグリ○が出してるって知っている方が、よっぽどグリ○のまわし者だろうよ。」
突っ込み返されてしまった。
こんな下らないことを言い合える時間が楽しい。
ずっと続けばいいと思う。
でも・・・・・・。
「安宅も、プリッツよりポッキーの方が甘くて美味しくて好きなの?」
それは安易な暗喩。
安宅は笑顔で
「甘いものばっかり食ってると、たまにしょっぱいものが食べたくなる。」
と答える。
だから彼女たる貴帆の目を盗んで、たまにこうやって私にちょっかいを出しに来るのね、という皮肉は嫌われそうで言えなかった。
下らない話はたくさんできるのに、肝心なことは何一つ言えないのだ。
人の気持ちを知っているのか
「ポッキーゲームでもしない?」
安宅は罪作りな笑顔でプリッツを口にくわえると、私の口の方へ突き出した。
プリッツの端っこが、私の唇にあたる。
軽く歯をあてて、噛んでみた。
安宅の顔がすぐ近くにある。
心臓が唇にあるみたいにドキドキして、血が頭にカァーっと昇った。
この細い棒をたどっていけば、私と安宅はキスしてしまう。
そう思うともうどうしていいか分らなかった。
パキン。
無理矢理折ったのは、意気地のない私。
「ポッキーじゃないので、ポッキーゲームはできません。」
折ったプリッツを食べ終わってから、おどけてそう言うと、安宅は少し傷ついた顔をした。
そんな顔するから、諦めきれなくなる。
「そろそろ、音楽室に戻るね。」
私はプリッツを鞄にしまうと、セーラー服のタイの端をぎゅっと握りしめて立ち上がった。