『鎌倉八景〜天園ハイキングコース〜』-4
引き返すなら今だった。
「このまま行きますか。」
私は、七瀬さんに最後の確認をした。
これを登りだしてしまえば、後には戻れない。
道的にも、私の気持ち的にも。
「行ってみよう。頑張るよ、私。」
七瀬さんは、朗らかに笑う。
何も知らないステキな笑顔。
幸せな、爽やかな笑顔。
許せない。
私の辛さの上に成り立つその笑顔が。
七瀬さんは、簡単に私の差し出したペットボトルを飲む。
毒を入れておけばよかったと、毒の入手方法を知らないくせにそんなことを思う。
その笑顔は、あともう少しで崩れる。
私の一言で。
歩き出すと、途端無口になった。
元から私たちはそんなに仲良くないのだ。
共通の話題などない。
私は何度も何度も歩いた道だけれども、七瀬さんはこの道は初めてだろうし、それどころか、こんな舗装されていない道を歩くこと自体が初めてかもしれない。
足元に、異常なほど気をつけながら、山道を登る。
「結構すごいことになってきたね。」
七瀬さんは少し不安そうに言う。
無防備な人。
「まだまだですよ。高尾山とか登ったことありませんか?あれと同じ感じですけどね。」
「小学生の時に、そう言えば高尾山は登ったわね。」
既に、息が上がっている。
「もうすぐ半分ですからね。」
こんなコースでこれというのは、相当な運動不足なんじゃないだろうか。
「まだ半分行ってなかったの?もう終わりの方だと思ったよ。」
甘い考え。
そんな考えだから・・・・・・。
まだ、だ。