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『鎌倉八景〜天園ハイキングコース〜』
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『鎌倉八景〜天園ハイキングコース〜』-3

それは賭けだった。
突然思いついたかのように、日向は建長寺のハイキングコースを歩く事を提案して来たが、その足がはく登山靴からも、その迷いのない足取りからも、明らかにそれは計画的なものであることは明らかだった。
その時になって初めて、私は今日の鎌倉への旅自体が日向の計画である可能性に思い至ったのだった。
これは罠かもしれない。

それに乗るか、乗らないか。
賭けとは言っても、乗らないわけにはいかない賭けだった。
だって私はもう鎌倉へ来てしまったのだから。

石段は、思いのほかきつかった。
日頃の運動不足がたたっているのだろう。
中学生の集団が、横を走り去っていく。

「若さっていいわね。」

それは中学生のことを言ったのだが、隣の日向はちょっと下を向いた。
日向は自分のことを言われたと思ったらしい。
そう言えば、日向と私は3歳違うのだった。32歳と29歳。自分では3つしか違わないつもりなのに、女としての社会的評価はまるで違う。いや、体力もまるで違うのかもしれない。
日向の息は一切あがっていない。
確か日向は、大学の時、山登りのサークルに入っていたはずだ。
忘れていたが、私の彼氏、悠人のサークルの後輩だった。
その共通点で、そう言えばゼミでは、少し話すようになったのだった。

石段を登ると、カラス天狗の像がずらりと並ぶ場所に着いた。
異様な雰囲気を感じる。
そこのベンチに座ると、日向が鞄の中からペットボトルを2本取り出した。

「どちらがいいですか。」

緑茶と紅茶。
気が利く。
日向とは、こんな子だったろうか。もっと屈託のないタイプだと思っていた。
こんな風にちゃんとできる子ではないと思っていた。

「ありがとう。」

紅茶をとって飲むと、ほんのりと甘い。
その甘さにちょっとだけ勇気を貰う。
日向は本当は別に、私を罠にかけようとして鎌倉へ誘ったわけではないのかもしれない。ただ単に、私が鎌倉へ行きたいと言ったときに、彼女も鎌倉へ行きたかっただけなのだ。

「そろそろ行きましょうか。」

そう言って日向が立ち上がる。

「そ、ね。」

しかし、最後の石段を登りきったあと、すすむべきなのが土による道になったのを見た途端「しまった」と思った。
引き返すなら今だった。


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