『鎌倉八景〜天園ハイキングコース〜』-2
とても後悔していた。
七瀬さんを鎌倉に誘ったことを。
それでも私は、これをせずにはいられなかったのだ。
この女性に、言わなければならないことがある。
いや、それは本当は、絶対に言ってはならないことなのだ。
七瀬さんの足元を見る。まさに革靴。高校生のはくローファーのオシャレなやつって感じ。鎌倉に来て革靴っていったい何を考えているのだろうか。歩けないではないか。ましてや今日は・・・・・・。
いや、七瀬さんは今日歩くコースを知らないのだから、仕方ない。
ニュートラルに考えられなくなっている。
七瀬さんが、バカな、嫌な、鈍感な、そんなに美しくない女なのだと思いたがっている自分がいる。
しかし、きっとそれは客観的な評価ではないのだろう。
なんと言っても、この人は、悠人さんの彼女なのだから。
長い睫毛、長い手足、長い髪、高い背、大きな目、整った顔。
綺麗なひと。
「登ってみませんか?ここのハイキングコースを歩いてみませんか?終点は鶴岡八幡宮だし。」
建長寺の階段を指差してみた。
まるで、今思いついたかというように。
「登るの?」
驚いたように七瀬さんは繰り返した。
石の階段は、随分上まで続いている。
「この靴で行けるかなぁ。」
「行けないかもしれませんね。」
じゃあ止める、という一言を期待した。
そう言ってくれれば、私は今日の企みを止めようと思った。
それは賭けだった。