太陽と風と鈴の音(あの夏3)-2
真ん中で折れるタイプのアイスを片方ずつ。
座って食べる彼の横で、彼女は仰向きに寝転がり、広くはない縁側を占領していた。
そして、横に置かれた虫かごを、時折満足そうに眺めている。
中には、彼の努力の結晶が、一匹だけ羽をたたんでとまっていた。
水に濡れた彼女の黒く長い髪が、扇のように広がる縁側。
それとは対照的な、白い首筋、細い脚。
それを見て、彼はふと恐くなる。
もう、彼女への想いから、逃れられないことを知って
そうしているうちに、真昼の暑さは影をひそめはじめる。
そのうち、嘘のような速さと美しさで、太陽は沈んでいくんだろう。
少しでも日が傾くことが、彼は昔から嫌だった。
彼女が家へ帰ってしまう、その時間が近づくから。
「フウ、この蝉、もう逃がしてあげて」
だるそうに体を起こしながら、彼女は言う。
それから、虫かごを持った彼と一緒に立ち上がる。
「ねえ、フウ。今夜は花火をしようか」
虫かごの蓋を開けていた彼の手が止まり、顔をあげた。
あの夏の日に、「夜」はなかったはずなのに。
何かを言おうとして開かれた彼の唇に、ふいに彼女のそれが重なる。
驚いて彼が落とした虫かごから、一瞬迷ったように間をあけて蝉が飛び立ったのと、彼女の赤い唇が、軽く笑みの形を作ったのとは同時だった。
その大きな目が、挑発的に光る。
だけど、それは、一瞬のこと。
次の瞬間、彼女は勢い良く庭に駆け出し、遠くから彼を呼んだ。
「フウ!この朝顔、明日の朝にも咲くと思う?」
スカートが翻る。
黒い髪が揺れる。
縁側の風鈴が、ちりんと涼やかな音色を奏でた。
「…いま行く!」
駆け出す彼のうしろには、転がったままの虫かごと、食べおわったアイスの残骸だけが残されていた。
この夏はまだ、終わらない
完