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あの夏
【初恋 恋愛小説】

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始まりと、終わりの日(あの夏4)-5

今度の忘れ物は、もう返すのをやめる。
夏の恋の記念に、本一冊くらい、もらってもいいだろう。
どうせ彼女は、忘れたことすら気がつかないのだろうし。

外へ出ると、もう夕焼けが秋の色だった。
その色を背に、彼女が読んでいた本のことを思う。
――『異邦人』
終わることを知らないかのような、暑い暑い夏の物語

終わらない夏を、彼女はきっと望んでる。
だったら。
黙って本をもらってしまうお詫びに、僕もちょっとだげ、そう願おうかな。
彼女の夏が、続くよう。

歩きだした僕の背中に、風が揺らした風鈴の音が聞こえた。
きっと、この音を聞くたび僕は、今日という日を思い出すだろう。

始まりと、終わりの日を。
幼くも大人で、鈴の音のように美しいあの人と、向かい合った夏の日を。

         完


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